ご住職は言った。

「旅に出なさい! 家でじっとしていてはダメだ、旅に出れば周りは知らない事ばかり、前から人が歩いてくればよけなければならない!」

意外な答えに「そうかぁ! 旅か」と宙を仰いだ。

二人で旅行することを楽しみにしていたが、妻の死でそれは叶わなくなった。旅ならばツアーに申し込めばよい、と早速ツアーに申し込んだ。

ツアーの案内が届き参加人数が記されていた。11名。きっとペアー5組と一人私だなと思った。案の定夫婦4組と若い女性のペアーだった。

あーあ自分はツアーを使えないな。仲睦まじい夫婦から目を背けたくなるような衝動に駆られた。妻に先立たれた永六輔さんが著した本『あの世の妻へのラブレター』(中公文庫)を思い出した。

永六輔さんが田原総一朗さんとの対談で「仲の良い夫婦を見ると殺意が(笑)」と言っていた。永さん独特のユーモアだけど気持ちが分かるような気がした。

ツアーを使わないで旅をする。二人分を一人で!を肝に命じて私は計画を始めた。

とにかく思い切り環境を変えたい。すると海外旅行がいい。どこにするか。妻が好きだったヨーロッパにしよう。

旅費滞在費を極力安く、そしてせっかく海外に行くなら英語の勉強もしたい。ヨーロッパは英語圏でないと思っていたが、念のために調べてみたらマルタ共和国は英語圏という事を知った。そこに英語学校があった。

二人分を一人でなら滞在期間も長くしよう。英語学校の寮に入れば格安で長期滞在可能だ。経済的に考えればそれが一番だけれども、年齢的に大丈夫なのか。きっと若い人の学びの場では。

いろいろ迷いながらも的は絞られていった。

期間はクリスマスから年末、正月にかけて──家族が楽しい時期だ。

妻のいないクリスマス、年末、正月はいらない!

 

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