小さな物語

偉大なる教育者たちとコウ先生

【序章】

コウ先生は幼児教育学科の教授である。小学校教員を三十六年間務めた後に、離島の幼稚園で副園長を務めた。ところが、幼稚園園長との心のすれ違いがあり、幼稚園時代は、わずか数ヶ月であった。

これも不運であった。なぜなら、人生における不運は、これが初めてではなかったから。人生には、不思議と不運が付き物である。その不運に負けないで、立ち上がったときに、新しい世界に出会うことができる。

一番目の不運は、親を失ったときである。親孝行をしようと思ったときには、親は次の世界へ旅立った。

二番目の不運は、自分が信じてもらえなかったときである。追い撃ちで容赦なくどん底に突き落とされた。

こんな不運は、めったに味わえない。人生で一度か二度である。コウ先生は、それでも、今なお生きている。そんなコウ先生へチャンスが到来した。大学教員募集があったのである。コウ先生は滅多にない、その運を見事に手繰り寄せ、幼児教育の道を歩み始めた。

そして、コウ先生は、過去の教育哲学者たちと、対話できるほどまでに到達した。もちろん、あり得ない話である。夢の中でのみ対話できるのである。

過去の偉大なる教育者たちとは、「子どもの発見者」と言われる偉大なるルソー、「幼稚園」を世界で初めて創設したフレーベル、そして、ルソーの影響を受けて教育施設を営み、フレーベルに多大なる影響を与えたペスタロッチーである。

どの教育者たちも、偉大である。そんな教育者たちと、コウ先生は、肩を並べられるわけはない。また、住む世界も異なる。今や彼らは、偉大であるとともに、天国の世界で暮らしているからである。むろん、天国の世界があったとしたらだが、これは体験してみないと分からない。

さて、これからの話は、コウ先生が見た夢である。夢の中では、ルソーは「ウソー」という名前で登場する。ペスタロッチーは、「ペー」という名前だ。フレーベルは、「フー」という名前だ。もちろん、彼らと対話するコウ先生も登場する。「コー」という名前で。

夢だから、ヘンテコリンなこともある。了解してほしい。皆さんに、是非読み進めてほしい。面白いからね。付け加えておくが、コウ先生は、「生の哲学者」の一人として挙げられるニーチェの影響を受けている。

それでは、夢の世界へ招待しよう。途中で、この夢の世界から覚めませんように。

【一つ目の夢 ウソーやフーと話したよ】

私(コー)は、ウソーに話しかけた。

「ウソーくん、君は素晴らしいではないか。君のお陰だよ。君が子どもを発見したんだね。それまでは、子どもは、小さな大人、未熟な大人、鍛えたり躾けたり教えたり訓練したりしなければならない存在だったんだ」

ウソーは、応えた。

「確かに子どもは、素晴らしいんだ。子どもには、自らの心の中に内在している力があるんだ。それは、自ら成長しようとする力なんだ。だからね、大人は、その力、子どもの中に内在している力を引き出すように援助するだけでいいんだ。

やたらに教えようとか、指示通りにさせようなんてしなくていいんだ。もともと、子どもの中には、光り輝くものが眠っているのだからね。そういう光り輝く力を呼び覚ますだけでいいんだよ」