【前回の記事を読む】子供を死産して二年後、やっと初めての子供に恵まれた。キラキラした瞳と、赤ちゃん独特の甘い匂いが幸せをもたらしてくれ…
六 第二の人生 結婚 子育て
末っ子は長女とは全く違うタイプの子供だった。年齢が四歳違うので感じ方が違うのかもしれないが、親がいなくても、泣くことはなかった。
ある日、次女が言うことを聞かずに、駄々を捏ねていたとき、今なら親の虐待だと言われるかもしれないが、「よく考えなさい」と叱って、マンションの自室の玄関から廊下に出したことがある。
上の子たちだったら、出された瞬間に、「ごめんなさい。もうしないから、堪忍して」と泣き出したものだが、この子の場合は、黙って廊下に出て行き、扉を閉めたら表はシーンとしていて、泣き声もなければ物音一つしなかった。
その音のなさに親の方が不安になり、そっと扉の向こうを覗いてみた。すると、扉の向こうに、次女はいなかった。娘は外に出された途端に、その場にじっとしていることは考えず、どこか行き先を考えたようだった。
叱られたとも感じていないのか、けろっとした顔で、同じマンションの住人である友人の懐に逃げ込んでいたのだ。
「おばちゃん、お母さんにあやまってちょうだいっていうのよ。この子」
友人が笑ってそう言った。親の勢いだけが空回りしていたような出来事だった。子供は一人ずつ性格が違うので、他の子の子育ては経験が生きない仕事かもしれないと感じさせられた。
長男がやっと三、四歳になった頃、息子に対する期待度の大きい父親は、自分の好きな阪神タイガースのユニフォームと同じデザインのTシャツや、帽子を買ってきて長男に与えた。
テレビで見たことのあるタイガースの帽子を、息子は殊の外喜んでかぶって見せた。それから何日もしないうちに黄色いバットやボールなど幼児向けの野球グッズが揃えられ、親子で野球ごっこが始まった。