第一章 ロボットと少女

どうしてこの子を

「うあああぁ、うあああぁ!」

雲一つない晴天の中、赤子の声が空に響いた。

赤子は建物の瓦礫の上にぽつりと置かれており、その下には赤子に手を伸ばし、それでも届かず瓦礫に押しつぶされた人間の遺体が転がっている。赤子には、なにもわからない。

「うぁ、ああああぁ」

さびしい、かなしい、こわい。

「怖い」という単純な感情に支配されたまま、赤子はずっと泣いている。大人のような複雑な感情ではなく、理由もなにもない、ただの「恐怖」しか感じない。

ぱぱとままはどこ?

くらい、こわい、さむい、いたい。かなしい。

「……?」

そのあたりを移動していた、見間違えるほど人間にそっくりの見た目をしているロボットがいた。短い黒髪、パーカー。

本当の人間のような見た目をしているが、虫よりも感情がこもっていない無機質な目だけが、彼女がロボットだという証拠だった。ロボットは、赤子の泣き声に気がつくと、建物へ寄っていった。

長方形の真っ白な建物は、真ん中あたりが丸くへこんでいて、それは自然現象とは思えないほど綺麗な球体だった。

所々に小さな瓦礫があって、転びそうになってしまう。ロボットは赤子が転がっている場所まで行くと、赤子の姿を見て目を丸くした。

「これが、人なのか……?」

真っ白な髪に肌、右の額に生えた角。人の形をしているが、これじゃまるで鬼のようだ。赤子は入院着のようなものを着ていて、襟の部分に「ティーナ」という名前が書かれていた。

おそらく、これがこの赤子の名前だろう。赤子を拾い上げてみると、澄んだ瞳に気づいた。赤子も自分を抱き上げているロボットに気がついた。

「……ぅ?」

ロボットを見ると、泣くのをやめた。ずっと探し求めていた物を得たような、そんな安心感にも近い感情が生まれた。

「……っきゃっ、きゃ!」

赤子は、さっきまでの涙が嘘のように、笑い出した。

「……」

その赤子に、興味が湧いた。ロボットの自分に、感情という機能が搭載されているなんて知らなかったが。これはきっと、感情というものなのだろう。

なぜ、笑うのか。なぜ、泣くのか。どうしてこんな姿をしているのか。なんで自分はこんなにこの赤子に興味を抱くのか。なぜ、なんで?

気がつけば、その赤子を連れ帰っていた。最近は近くにある、もうずいぶんと使われていない苔まみれのマンションの二階に住んでいる。この世界には人が全くいない。ロボットは、「白衣の人間」以外の人間を見たことがない。

 

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