光一は、この書斎の主が愛用していたデスクに向かい、よく使い込まれた座り心地のよい椅子に腰掛けた。やわらかな陽の光が、この部屋の空間にただよう微細なチリを照らし出している。椅子の背もたれに寄りかかり、やがて目を閉じて思考の中へ入り込んでいった。
読書家、研究家にとってはまさに理想の環境だ……。
いや、物思いにふけっている場合ではない。オレはここに手がかりを求めに来たんだ。
光一は我に返ると、改めてあたりを見回した。
まさか警察のように指紋や遺留品を調べるわけにいかないし……。
ましてやそんな道具やノウハウもないし……。
オレはここにきてなにを確かめたかったんだろう……。
もしも本当に殺されたのなら、その原因はなんなのだろう……。
誰かが殺したのだとしたら、なぜ自殺と見せかけなければならなかったのか……。
それに、なぜあの暗号めいた文字を残したのか……。
自らの死を予感してのことなのか……。
じゃ、誰にあてて……。
亡くなる直前、オレに会いたいといっていた……。
もしかしてオレへのメッセージ……。
もしかすると身に危険が迫っていることを誰かに伝えたかった……。
と同時に、オレへの警告も……。
大量の古書が放つ匂いが先ほどから鼻腔をかすめている。目を閉じているとなおさら嗅覚が研ぎ澄まされる。古書から発せられる饐(す)えたような匂いは嫌いではなく、光一にはむしろ心地がよかった。
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