ピンクの箱に女の子の絵が描かれた薄い箱には「ていねいに扱ってね♥」という吹き出しがあった。そして、「取り扱いについて」とティッシュには珍しい取扱説明が書かれていた。僕は面倒臭いと思いつつも、その取説を目で追った。……取説にはこう書かれていた。

『●ティッシュは一枚ずつ丁寧に取り出してください。やぶれたり穴が開いたりすると、うまくいきません。

●ティッシュに描かれた部分を正しく並べ、すべてが揃うと人として活動します。

●人と言っても基本はティッシュですので、暴力による破壊、液体・粘着物による破損、火による焼失、水による崩壊など少しの衝撃により本体が消失する可能性があります。

●基本、箱入り娘ですので、できあがった娘には何もさせず、人形のように椅子や床に座らせ日々の会話をお楽しみになることをお勧めします。』

この取説を読んで僕は改めて『箱入り娘』と書かれたピンクの箱を見た。

(人って……だって……ティッシュだろ……)

そう思いながら、しかし、取説の『やぶれたり穴が開いたりすると、うまくいきません。』という言葉が引っかかり、引き出し口を開けた僕はピンクの箱からそっと一枚ティッシュを引き出した。

その一枚のティッシュには『手』が描かれていた。正確には薄桃色の掌と手首が描かれていた。僕は箱の取説にもう一度目を通し、二枚目のティッシュを引き抜く。二枚目は足の甲と足首、三枚目には肩が引き出され、そして四枚目を引き抜いたティッシュには、目を閉じた少女の顔が描かれていた。

『ティッシュに描かれた部分を正しく並べ、すべてが揃うと人として活動します。』取説のこの部分をもう一度読み返した僕は、発作的にこの少女絵の完成を見たいという衝動に駆られ、一枚ずつ丁寧にティッシュを引き抜き、描いてある絵をパズルのように床に並べていった。

そして、最後の一枚のティッシュを引き抜くと同時に床に並べた人体パズルが完成し、栗色の髪をした少女の絵ができあがった。長い髪に白いノースリーブのワンピースを着た彼女は、ちょっと僕の好みかなと思った。

そのとき、床に並べたティッシュの少女の体が膨らんで丸みを帯び、僕の前に立ち上がった時には、ティッシュではなく人としての少女がそこにいた。

ビックリしすぎると声も出ないとは、このことだ。腰が抜けて床に座りっぱなしの僕に、ティッシュの彼女はやさしく微笑み、僕の前にしゃがみこんだ。透き通るような色白の肌、ピンクの唇、琥珀色の瞳……ティッシュの絵だったとはいえ、本当に絵から抜け出したような美少女がそこにいた。

「きみ名前は?」

やっとの思いで口を動かした僕の質問に少女は首をかしげた。そんな彼女を見て僕は思った。

(そうか名前とかないんだ。僕がつけていいんだよな。彼女は今生まれたから、いろんなことを僕が教えていいんだよな。そうだよな、もともとティッシュだから何も知らないワケだし……よし!)

僕は目の前の少女の手を取って言った。

 

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