元日、真冬にしては陽射しが暖かく降り注ぐ部屋で、朝食を食べ終えたお婆さんは薬を飲み始めました。

その時、薬の1錠が手のひらから滑り落ち、出っ張った柔らかいお腹に落ちました。薬は意思があるかのように壁に黒い影を落としながら、ポーンと跳ね上がり、2メートル先で口を開けて居眠りをしているお爺さんの口に飛び込みました。お爺さんは思わず飲み込んでしまいました。

お爺さんはびっくりして、お婆さんに訊ねました。「この薬は何の薬かね」
お婆さんは笑って答えました。「心配いりませんよ。女性が若返って美しくなる薬ですから」
それを聞いてお爺さんは安心しました。

翌朝、目覚めた時お爺さんは自分の胸が少し大きくなっているのに気付きました。体全体に肉が付き、浮き出ていたあばら骨は見えなくなっていました。肌は潤いを持ちかすかな体臭がありました。

お爺さんに遠い記憶がよみがえりました。そうだ、若い時彼女の手に初めて触れたあの時のことだ。手のひらのなめらかな感触、鼻腔を満たした甘い香り、懐かしい記憶に胸はぎゅっと締め付けられて息苦しさを感じました。

2日目の朝、目が覚めると、お尻が大きくなり、太股が太くなっていました。小さくなって皺の寄っていたお尻に触ってみると固く筋肉が付いていました。そうだ、若い頃友人とゴルフのコンテストでドライバーの飛距離を競った時330ヤードで優勝したのだ。お爺さんはその時のことを思い出し、嬉しさに、身の震えるのを感じました。