「そんなもの、ありませんが?」

藤堂刑事は僕の反応を見て笑みを深めた。

「君は宮園さんを待ち伏せしようとしていたが、叔母さんに止められて、家を出られなかったんだろ」

「そうです」

何を間違えた。藤堂刑事の笑みは何を意味しているのか。嫌な予感が急速に胸に広がっていく。僕は笑みを崩さずに藤堂刑事を見つめた。

「じゃあなんで家を出た後、宮園さんを追いかけなかったんだ? バスが走っていったとしても次の便で追いかけることもできたろう? 君は待ち伏せするほど宮園さんに執心しているのに、バスを見送った後は意外にもあっさりしているね」

馬鹿だ。僕は本当に馬鹿だ。圧倒的な矛盾だ。なんで気付かないまま話を進めてしまったのだろう。今更悔やんでも仕方がない。むしろ言い訳を考えなければならない。

瞬間的に切り替えようとするのに頭に何かが引っ掛かったみたいに動かない。馬鹿だ。自嘲が漏れそうになる。宮園のことばかり考えていて、自分の視点で考えていなかった。

しかし、藤堂刑事はこの証言を突破口に考えているのではないかという可能性が頭をよぎる。逆にここを守りきれば反撃されないのではないか。

「バスが出て行って諦めたんです。たまにはそういう心境の変化もあるでしょう?」

藤堂刑事は苦しいねと笑う。僕は負けじと、それが事実ですからとさわやかに流す。

「理解しがたくとも、それが本当なんです。そういうことはよくありますよね? 刑事さんなら分かりますよね」

「そうだね。分かるよ。つまり君はバスを見送らなかった場合、付きまとっていたわけだ」

嫌な言い方をするなと思いつつ、その方が納得してくれるならそれでいいと思ってしまった。きっと藤堂刑事の作戦は僕を怒らせること。僕を感情的にさせて、ぼろを出させようとそういう作戦なのだ。だからその手には乗らない。僕は素直に首肯した。

「付きまとうなんて言い方悪いですね。ただ昨日のことを謝りたかったんですよ。多分告白の場所が気に食わなかったんでしょうね。宮園はロマンチストなところがありますから」

「そうだよな。逆に言い換えると君は家を出る前までは学校についていく予定だったんじゃないかい?」

「え、ええ」

 

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