すると、弓子は勝也の決意を受け止めて力強く言った。「お前ら結婚するんやったら駆け落ちする覚悟で一緒になれよ」
そう言われる事を何となく分かっていたが、勝也はその事には触れていなかった。弓子がおばちゃんのスナックを辞めた時から弓子と紗香の母親とはまったく交流もなく不仲になっていたからだ。そんな事は関係なく、勝也は駆け落ちでも何でもして一緒になるつもりだった。紗香も覚悟を決めていた。まだ17歳だったが、死ぬ気で働いて子育てする覚悟はできていた。
紗香は自分の母親に妊娠を伝えた。
紗香の母親、江美(えみ)は子供の意見を尊重する人だったが、この時だけは違っていたようだ。
大反対の上、かなり酷く言われたようで、それには紗香も逆らえず、中絶する事になった。勝也は頭がおかしくなりそうになり紗香にも当たってしまった。
「母親の意見なんて関係ないやろ。駆け落ちする覚悟はできとるって言うたやろ」
紗香は泣きじゃくるばかりだった。紗香は母親には絶対に逆らえない。勝也もまだ未成年で何もできない。この感情はどこにぶつければ良いのか。勝也はどうする事もできなかった。
そして、江美は1日でも早い方が良いと、直ぐに産婦人科へ紗香を連れていき中絶手術をする事になった。
手術当日、勝也は受け取りの仕事でどうしても休む事ができないので仕事に行った。
帰った頃にはお腹の子は居ない。仕事も集中できず、一緒に働いていた人達に迷惑をかけていただろう。
仕事が終わり帰ると、紗香がマンション2階の廊下から顔を出して待っていた。
「大丈夫やったか?」
すると紗香は大泣きしながら意外な事を言った。