車を近くの駐車場に入れて歩いて入った「アロハカフェ」は、大きな窓にカラフルなネオン。入ればビリヤード台があり、大人の雰囲気に圧倒された。僕はもちろんだけど、奈々さんと伊藤さんも車なのでお酒は飲まない。

周りのお客さんは殆どお酒を飲んでいたが、三人でお店の名物〝バナナジュース〟を飲む。チームメイトの感じがして、違和感もなく居心地良かった。

ハーレーがよく止まっていた「ブギーカフェ」は、アメリカンな雰囲気で、店内に入ると、そこはまるで外国に来たようだった。ここでは生れて初めて本格的なハンバーガーを食べた。

僕が知っているハンバーガーとはまるで違う。パンにパテを挟むのではなく、ハンバーグステーキにパンを挟む感じ。世の中にこんなに美味しい食べ物があったのかと、口がソースとケチャップだらけになってもお構いなしで、むさぼるように食べていたら、

「急いでないんだから、もっと落ち着いて食べて」と、二人からたしなめられる始末。大人になって、僕が食いしん坊グルメに目覚めた原点はここかもしれない。

三人の時、奈々さんは楽しそうにはしているが口数は少なかった。過ごしている時間を体じゅうで味わって楽しんでいる感じ。なので、自然と僕の話し相手は主に伊藤さんの役割になった。

「将来は何になりたいのか」「お父さんはいつ帰国するのか」「アジア会館で働いている人で一番優しいのは誰か」「好きな子はいるか」など、ずいぶんといろいろな話をした。

土日の長い時間を一緒にいたので、学校のどのクラスメイトより会話量は多かったかもしれない。なんとなく頭の片隅に、「本当は二人だけのほうがいいのだろうな」と思いつつも、自分の幸せな時間を失いたくなくて、そんな思いを振り払うようにたくさんおしゃべりした。

でも終わりはやってくる。

ついに恐れていたその日はやってきた。

「私がいなくてもちゃんと宿題やるのよ」

「お酒飲む大人と付き合っちゃダメよ」フロントの女性に僕のことを相談し、情報共有していたらしい。

「試験受かったら遊びに来るね」

この日も伊藤さんが車で迎えにきて、僕と握手すると、「またな」と言って MUSTANGの運転席にスルリとカッコ良く乗り込む。野太いエンジンの音がして、するすると車が動くと、あっという間に見えなくなってしまった。

「男は人前では涙を見せてはならん」、と言っていた父からの教えはしっかりと守りたかったが、やはりこの日も温かい涙が僕のほほを伝わって流れた。

 

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