第一章 伝説の大陸と最終氷期の大陸

太平洋に沈んだ「ムー大陸」と大西洋に沈んだ「アトランティス大陸」は、どこにあったのでしょうか。これら二つの伝説の大陸については、今でも謎のままです。
しかし、最近に起こった陸と海の地形の大きな変化として、今から約一万年前から起こった海面上昇による沈んだ大陸の物語があります。
それは、今から数万年前から始まった最後の氷期(氷河期)と関連しています。この氷期には、地球の北半球の大陸に氷河(氷床)が広く厚く発達して、そのため海の水が少なくなり、海面が現在の水深約一〇〇メートルのところまで低くなっていました。
そのとき、大陸とその沖合にあるいくつかの島々が陸地でつながっていました。その後、今から一万三〇〇〇年前ごろから海面が急激に上昇して、それらの陸と島をつないでいた架け橋の陸地(陸橋)が海に沈み、島々が孤立してしまいました。
本書の最初の章として、「ムー大陸」と「アトランティス大陸」の伝説の大陸の話から始めて、次に、現在から見て最後の氷期以降の海面上昇によって沈んだ大陸(陸地)の話をしたいと思います。
一 伝説の沈んだ大陸
ムー大陸
ムー大陸は、ジェームズ・チャーチワードが一九二八年に著した『失われた人類の母なるムー大陸』や一九三一年の『失われたムー大陸』などの一連の著作の中で、現在のハワイ諸島やマリアナ諸島、イースター島など南太平洋上に点在する島々がすべて陸続きになっていて、東西七〇〇〇キロメートル、南北五〇〇〇キロメートルにもなる超大陸が存在したと考えたものです(本章扉図1)。
この大陸は、世界でも類を見ないほど栄華な文明を誇っていましたが、今から約一万二〇〇〇年前に巨大地震などの天変地異が起こり、一夜にして水没してしまったとされました。
チャーチワードがムー大陸とその文明の存在の根拠にしたものは、イースター島の巨大なモアイ像の遺跡や、クック諸島のマンガイア島、トンガ諸島、カロリン諸島のポナペ島やコスラエ島などにある神殿や巨石の遺跡などでした。
しかし、ムー大陸があったとされる海域は、それぞれの諸島以外の海底がほとんど水深五〇〇〇メートル以上ととても深く、その広大な深海底に一万二〇〇〇年前まで広大な大陸があった痕跡がまったく存在していません。
引用文献
【1】金子史朗(1977)『ムー大陸の謎』.講談社現代新書,講談社,188p
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