「そうですね、悠真さんを湯船に入れたらそうします。でもちょっぴり恥ずかしいですね」と言い、照れ笑いでその場を繕った。
悠真を湯船に入れる介助は大きな体を背後から支えながら、浴槽の座る位置に移動させ、ふうっとため息をついて、思い切って濡れた衣服をその場で脱いで、湯の温度を少し高くしてシャワーを気持ち良さそうに浴びた。
悠真が「入浴介助を初めてやってみての感想はどう?」と聞いてきたがシャワーの音でよく聞こえなくてもう一度聞き直した。「何ですか?」
「入浴介助はどうだったか? と聞いたの」
「美月さんの御苦労が分かりました。感謝ですね」
「彼女は二十年のキャリアのベテランですよ。君は毎日続けられる?」
「考えてみます」
美代子は少しでも自分の裸の姿を悠真に見られたくないので、シャワーを頭からジャージャーとかけながら、自分には入浴介助は向いてないな、と悟った。そして照れ隠しのつもりで、「ここ一年、運動不足がたたってお腹に贅肉が付いてしまったわ。何とかしなくちゃね」と背後の悠真の視線を気にしながらお腹まわりにたっぷりの泡を作り独り言を言った。
浴槽の中から悠真が「時間がたっぷりあるんだからフィットネスクラブでも行ったらいいよ。近くではたまプラーザに“グリーンジム”があるよ。あそこは大手の会社が経営していて田園都市線沿線の奥様達に評判だよ」
「行ってみようかしら、週一なら大丈夫よね」
美代子は悠真の方から勧められたので、行動に移しやすかった。以前より興味があったがなんとなく遠慮して自ら言い出せなかった。普段何もしないで家の中ばかりで過ごしている自分が少し退屈になっていた。これまでは週一回のパステル画教室通いは友達の結衣にも会えるのでこれまでは唯一の息抜きになっていた。
次回更新は4月13日(日)、22時の予定です。
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