「そうだよ、室内用は廊下の上を動かすからタイヤも細いんだよ」
悠真の体が不自由になったときにリフォームして、洗面所や風呂場も広くしてバリアフリーになっているから、車いすでの移動も室内のドアの開閉も軽く、一人での行動が安易な設計になっている。
風呂場で滑って事故でも起こらぬよう滑り止め仕様の床になっていて、さらに浴槽が半地下のように、出入りが容易な工夫がなされていた。美代子は自分が主人の入浴介助をすることなど、考えてもいなかったので、普段は気にも留めないで当たり前のように入浴していたことが恥ずかしく思った。
美代子は入浴用のバスローブを悠真が脱ぐのを手伝って風呂場に入った。
「悠真さん段取りについて指示してくださいね」
「分かったよ。先ず頭から洗うか。私用のシャンプーはそこの緑色のキャップのボトル、このシャンプーは弱酸性でボディにも使えるんだ。だから頭を洗いながら体もそのあぶくで洗うから便利なんだ」
「そうですか。私なんか三つも使い分けていますよ。頭、顔、ボディとね」
美代子は恐る恐る悠真の頭にシャンプーをかけて、洗い始めた。背中に洗剤を広げてタオルで広い悠真の背中をごしごしこすった。
「そんなに強くこすらなくてもいいよ。毎日風呂に入っているから、撫ぜるようでいいんだよ。体の前の方は自分で洗うから」
「分かりました。それでは頭をシャワーで流しますね」そう言いながら美代子はシャワーのホースを左手で軽く持ち水流を強にした。その時シャワーヘッドが水流に負けて向きを変えて美代子の上半身をびしょ濡れにしてしまった。驚いてヘッドをしっかり持ち向きを悠真の頭に当てて洗剤を流した。
一瞬の出来事で、美代子のTシャツがびしょ濡れになり、下半身の半パンまで水が浸みてしまった。見かねた悠真が「いっそのこと、そんなに濡れたんじゃ美代子も風呂に入ればいいよ」と衣服が濡れてしまった姿を見て面白がった。