夏生の脳裏に九月の暑いグラウンドが浮かび上がってきた。

グラウンドを挟んで本部席と向かい合わせに陣取られた応援席からは応援リーダーが赤や黄色の色旗を打ちふるっている。

見上げれば真っ青な空。夏生の目の前には青や黄色、赤の鉢巻きを巻いた六年生たちが綺麗な列を作って二人三脚レースのスタートを待っている。

また黙ってしまった夏生にサオリが言う。

「運動会では、『みずいろ』の子と走ったんでしょ」

ハッとして夏生は「うん」と答えた。「続きは?」と丸眼鏡の奥の眼が優しかった。

「その子の白いズックの甲に、大きな赤い丸い布が縫い付けられていたんだ。俺の足と鉢巻きで結わい付けられるその子の右足の甲に」

夏生の脳裏に女の子の白いズックがはっきりと映った。

グラウンドの土は、陽光が跳ね返って眩しかった。二人三脚レースのスタート地点に二人が立っている。

いよいよ自分たちの出番だという時、「みずいろ」の女の先生が夏生の横に立って「夏ちゃん、鉢巻きで結んだ方の足から出してね」と囁いた。

「みずいろ」の先生の声に変わってグラウンドに渦巻く声援や応援リーダーが吹く甲高いホイッスルの音に包まれたかと思うと、

「六年二人三脚最後のレースです。会場のみなさん、大きな声援をお願いします」

と放送係のアナウンスが流れた。

どうしてだか、心臓が高鳴る。足を結わえてぴったり肩を組んだ「みずいろ」の女の子は地面を見ていた。