毒ガス、戦車、機関銃。産業革命に始まり、人を大量に効率的に殺すツールがテクノロ ジーとして確立され、大国の利益の合理的追究の当然の帰結として第一次世界大戦に至り、世界規模の実戦投入が兵器の更なる製造・進化を促(うなが)し、人々が勤勉愚直な合目的のもたらす飛躍に圧倒的に絶望的に打ちひしがれた時代。
合理性以外の行動原理として“無意識”を発見したジークムント・フロイト(オーストリア、1856~1939)もこの時代の人だ。日本は、“坂の上の雲”を見上げ坂を登り、登りきって一息つく間もなく、英米仏に遅れて、急ぎ特化した合目的の貫徹へと突き進んでいく。
この時代にあって、カフカは人間の最も露(あらわ)な姿を描き、ヘミングウェイは戦いに敗れ損(そこ)なわれた人間に在る尊厳を描き、カミュは法の精神を理解できない人間を描いた。
小休止を挟み再び勃発した第二次の世界大戦を経て漸く、世界は、公然と人目につく(謂わば世界公認の)殺戮(さつりく)の応酬を反省しこれを改め、僻地(へきち)での代理的応酬の黙認に切り換えた。そして人と世界を危うくする禍患(かかん)の根本にある実存に先立つ合目的競争についてはこれを省みず、どころか相変わらず奨励し、自由貿易世界経済と称してその主戦場を経済の舞台に移し、繰り広げている。