「かける君、悪かった。謝らなければならないね」英良は言い終わると、まだ喉に違和感があり、もう一度咳払いした。

「そんなことないよ、お兄ちゃん。僕はむずかしい病気で多分治らなかったと思うよ。お兄ちゃんがいくら頑張っても、僕を助けることはできない、こればかりは無理だよ」

かけるが言った後も暫く沈黙が続いた。かけるのような影は実体がなく生気も感じられず、かけるは直接英良の意識に話しかけてきているようだ。

「そうだよお兄ちゃん、僕は直接、お兄ちゃんの思念に話しかけている。人間は魂とか幽体とか似たような言葉で言っているけどね。お兄ちゃんも特別な力を持っているから僕からの言葉を聞くことができるんだ」

かけるは英良の考えていることを全て見通しているように話した。その影は時々、英良へ怖れ、警戒心や蟠(わだかま)りなどの相容れない表情を垣間見せる。人見知りをしているのではなく本質的に違う感性を持っているようだ。影武者としてのかけるであるはずが、プリズムを通って屈折させられた光のように何かがそうさせている。

「お兄ちゃん」かけるは問いかけた。

英良はかけるの顔を見た。

「僕には迎えが来たんだ。気持ちの悪い骸骨やら白い光が来て僕を食べてしまうんだ。そして腕を食べたり、足を持っていかれたりしたの。そして不気味な声が聞こえるんだ。『我らの闇の帝王よ』って言うの。頭が痛くなるほど叫ぶんだ」再び短い沈黙が続いた。

「その声はそのあと何と言い、かける君はどうした?」英良は聞いた。

「何も言わないの。ただその繰り返しで毎日が終わるの」

英良はふと我に返った。もう過ぎたこと。元には戻れない。かけるが言ったとおり死んでしまったかけるを生き返らすことはできない。何もできない。何もできなかった。それを考えると英良は自分の無力さを感じた。

「何も自分を責めることはないよ、お兄ちゃん」かけるはまた、見通したように言う。

「自然の法則なんだよ、お兄ちゃん」とかけるは付け加えた。生を受けたものはいつか朽ち果てる。永遠不滅のものなどないのだ。英良は自分に言い訳をしているのか、大義名分を探していた。

 

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