戦力外通告
朝目覚めると、気分は最悪だった。
この休みは購入してきた本をじっくり読んだのだが、逆に訳がわからなくなってしまった。
一冊目の本には、「売ることは考えず、お客様目線に立って営業をしろ」と書かれているが、次の本では「お客様のことは考えず、売る事だけに集中しろ」と逆のことをいっている。これではどっちが正しいのかわからない。
考えがまとまらないまま、木曜日の朝を迎えてしまった。ベッド脇にある時計に目をやると、もう七時三〇分になっていた。
「やばい、早く会社に行かないと」
僕は急いでスーツに着替え、水をコップ一杯だけ飲み、家を出た。
会社に着くなり、武田支店長に「朝礼が終わったら一番の会議室に来てくれ」と言われた。嫌な予感しかしない。
不動産会社の多くは木曜日から一週間が始まる。そのため、木曜日はいつもの朝礼に加え、各ユニットチームのリーダーが目標数字と進捗率を発表することになっている。
僕が所属している第二ユニットのリーダーは、朝礼前になるといつもハンカチで汗を拭っている。木曜日の朝礼に遅刻することなど絶対に許されない雰囲気なのだ。
朝礼が始まった。さっきまで騒がしかったフロアが一瞬にして静かになる。
「おはようございます。第二ユニットの発表を行います。三月は目標金額に対し、達成率七六%と不甲斐ない結果に終わりました。誠に申し訳ございません。敗因としましては、私の指導不足、課員のフォロー不足が挙げられます。今月は課員と積極的に壁打ちをし、必ず目標達成します!」
リーダーが声を震わせながら発表する中、武田支店長は渋い顔で腕を組んでいる。そして、「次!」と太い声がオフィスに響き渡った。
次の発表は第三ユニットだ。
「はい!」と、よく通る声が聞こえてきた。その声に、僕は無意識に眉間にシワを寄せた。
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