玄関の脇にまだ若い梅の木があった。堅いつぼみをつけている。孝介は、持参した水を静かに根元に注いだ。
翌週、孝介はまたペットボトルに湧き水を汲んだ。麓に目を移すと、稲株をつけたままの田が遠くまで広がっている。
立春を過ぎれば畑の仕事は準備が始まる。県道に出ても車はなかった。さらに静岡への道を走った。
よし子を隣に乗せて走ってから、半年も経っていない。俺はなんと馬鹿な男だと打ちのめされた思いは、このところずっと体から離れていかない。
そばに居てくれるだけで良いなど、よし子の強がりだったに違いない。俺が逃げていたんだ。墓を買ったと聞いても、うちの墓に入れとは言わなかった。愛人を一緒の墓に入れたよし子の父親の方がずっと男気がある。
死に水も取らせなかったのは薄情な俺を断ったからだ。
公園墓地の駐車場の梅は膨らんでいた。
よし子は墓の場所を教えなかった。あてずっぽうに探せるかと思ったが一面の墓だ。探すのを諦めて、駐車場脇にある事務所に入っていった。
初老の男が事務机の前に座っていた。
知人の墓参りに来たが、場所が分からないというと、台帳を取り出して調べ始めた。
「木村よし子さんという名では、墓地はありませんな。どなたかほかの方の名前では?」そんなはずはない。
「普通墓地と芝生墓地と……どちらもありませんな。―共同墓地ですかね。亡くなった方が一緒に入られるんですが」孝介はみんな一緒だから淋しくないと言ったのを思い出した。
そこかもしれないと言うと、別の台帳を取り出した。
「あっ、ありました。木村よし子さん。昨年購入されたのですね。しかしお骨は入っていません」
「そんなはずはない。本人は亡くなっているんだから!」孝介の口調が強くなった。