【前回の記事を読む】十代の頃から憧れていた外国での暮らし。念願叶ってついに移住したものの、一年も経たないうちに恋い焦がれていた異国の街並は…
Ⅰ 迷わずに「世界平和」よりも「セックス」を選ぶ人達
心から好きだったのに
モデル 思ったことが全部顔に出ちゃう人たち 全員二五歳
学生時代は バイト代と休みの日の予定を 全て海外旅行に捧げていた
やがて好きが高じて 短大卒業後にツアーコンダクター(いわゆる添乗員)になった
さぞや今頃 周りが羨(うらや)むような 人生を送っているのだろうと思っていたら
その道のプロになった途端(とたん) 楽しめなくなった 苦痛になったそうだ
どうやら 客の要望やクレーム処理 行程上のトラブル対応など
気を遣ったり 神経を擦(す)り減らしたりする場面の連続で
外国の街並や絶景を味わう余裕など皆無
毎月二回以上の 世界各地のパックツアーに同行するノルマは 体力的にもしんどい
旅行が 趣味から賃金を得るための労働に変わってしまったことが 主な理由らしい
彼女は小説が好きすぎて 中学校入学の頃から
暇さえあれば 部屋に籠(こ)もって ノートに自作の小説を書き溜(た)めていた
生活の中で 負の感情が刺激されるたびに それを物語に変換して
吐き出すように言葉を紡(つむ)いでいった
創作は 世渡り上手ではない彼女にとって 一種の精神的な救いともなっていた
時には 親に心配されて 無理矢理 戸外に連れ出されたこともあった
それでも 彼女の思考は全く停まることはなかった
大学入学後に アマチュアの同人誌を編集するようになり
仲間と 互いの新作を批評し合ったり 文学論について夜遅くまで語り合ったりした
やがて好きが高じて 大学卒業後に 新人賞を獲得して作家になった
さぞや今頃 幸せな人生とたんを送っているのだろうと思っていたら
その道のプロになった途端 楽しめなくなった 苦痛になったそうだ
どうやら 自分のひらめきや執筆のリズムに関係なく 設定された締切に追い立てられる
まとまった準備期間が欲しくても その前に 依頼くされた原稿を仕上げなければならない
自分の書きたいテーマではなく 出版社の意向を汲んだ作品を常に求められるが
何も思い浮かばないと焦り始めてきて アイデアを絞り出す作業は難航する
創作は 彼女にとって 精神的な重荷に変わってしまったことが 主な理由らしい
皆 子どもの頃の純粋な気持ちは どこへやら……
子どもの頃の夢が叶ったのに どうしてこんなことになるの?