私を一番幸せにしてくれる人は絶対に恭平だと、私には解っていたんです。

どんなに素敵な男の人を好きになっても、恭平の所に帰るまでの寄り道に過ぎないと解って、恭平に甘えていたんです。

私がどんなに好き勝手しても、「ただいま」と声を掛ければ、何も聞かずに恭平は迎えてくれると信じていたんです。

私が最も心を許すことができ、私を死ぬまで見守って欲しい人、それが恭平、あなただったんです。

昨日のあの電話までは。

昨晩、あなたに電話したのは、例によって一人の男性を好きになって、いろいろあった末に別れた直後の寂しさからでした。

何てことのないお互いの近況報告のあと、あなたが私に卒業後の進路を問い、「東京に出てこないか」と誘った。

私が「それもいいかな」と考えていた矢先、「いっそ、結婚して一緒に暮らさないか」と、あなたは唐突に言った。

「まだ学生生活が半分以上も残っているあなたが、どうして結婚なんかできるの」そう私がなじると、あなたは、強い口調で反論してきた。

「じゃあ、学生は結婚できないのか!?」

無鉄砲と意地っ張りは子供の頃からだから、私は諭すように言った。

「そんな夢みたいなこと言ってないで、もっと現実的なことを考えなさい」

きっと結婚の話は半分本気だったんでしょう。あなたは声を荒げて怒った。

「お前は何かと言うと、現実、現実って言うけど、現実ってお金のことか。お金なんか今は無いよ。今は無くっても、どうってことないよ」

「今無いんだったら無理じゃない。お金が無きゃ、ご飯だって食べられないのよ」