朝の豆腐作りが終わると、やっと朝ご飯の時間。初日だったから少し緊張していたのでお腹が空いた。ほかほかのご飯にお味噌汁、冷奴と軽くあぶった油揚げ。

いい匂いがする。やっぱり冷奴は美味しい。作りたてのお豆腐は最高で、ツルっとしてお豆の味もよくわかる。油揚げもいい。軽くあぶっただけで香ばしくて美味しくなるんだ。噛んだときのサクッという食感もいい。そして最後は、お味噌汁なんだけれど、なぜかすごく茶色いしドロドロしていた。

「奈津ちゃん。これは赤だし味噌のお味噌汁よ。これも名古屋の人が大好きなお味噌なの。あれ、どうしたの」

今まで見たことのないようなお味噌汁で、例えが悪いけれど泥水のように見えてしまい、少しだけ涙が出てしまった。秋田では白みそだから色が全然違うので戸惑ったけれど、思い切って飲んだら、見た感じとは違って美味しかった。名古屋は食べるものはどれも美味しいから、名古屋が大好きになりそう。

それにしても、旦那さんは、ほとんどしゃべらない。黙々と仕事をしているけれど、旦那さんと奥さんがお話ししているところをほとんど見たことがない。無口なだけなのだろうか、それとも二人は仲が悪いのだろうか。

洋一君も京二君も、「いってきます」とだけ言って学校へ行くけれど、元気がないし、うつむき加減で歩いていく。なんとなく子供らしさがないので心配だった。

田辺豆腐店に来てあっという間に一週間が経った。仕事も少しずつ慣れてきた。毎日忙しいけれど、なんとかやっていけそうだ。それよりも心配なことがある。

田辺さんの家族とほとんどお話ししていない。お話ししたのは、おじいさまと奥さんだけ。旦那さんも子供さん二人もほとんどしゃべらないし、おばあさまは見た感じが怖くて近寄りにくい。私がいけないのか、それとも嫌われているのか。よくわからないけど気になってしまう。こんなこと、誰にも相談できないし。

夕食後、夜は一人で自分の部屋の中にいてぼんやり過ごすだけ。秋田のときは兄弟と晩ご飯のあとも楽しくおしゃべりをしたりトランプをして遊んでいた。でも田辺家はすごく静かなのだ。洋一君も京二君も大人しいし、どこか違う。友達も近くにいないからおしゃべりする相手がいなくてつまらない。

私はなぜ、名古屋なんて遠く離れた町に来てしまったのかな。胸の奥からなんともいえない淋しさがこみ上げてきて、じんわり涙が出てきてしまう。

「どうしよう、お母さん」

私は大きくため息をついた。これからどうなるのだろう。

  

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