お豆腐が入っている大きな水槽に手を入れた。
「キャッ」
お水はやっぱり冷たかった。
「お水の冷たさは、最初はびっくりするけれど、毎日仕事をしているとすぐに慣れるから大丈夫よ」
奥さんが教えてくれた。
豆腐を大きな水槽に泳がせておき、いつでもお客さんに出せるように準備しておく。
「すいません。お豆腐くださーい」
早朝でもお客さんは容器を持ってやってくる。
「はーい」
奥さんが小走りで店先に向かったので、私もその後ろをついていく。
「この子、今日からウチで働く白石奈津さんです」奥さんは私をお客さんに紹介してくれた。
「よ、よろしくお願いします」少し緊張してしまった。
「まあ、小柄で、かわいい。まるで奥さんと姉妹みたいだね。奈津ちゃんね」
「はい。ありがとうございます」お客さんは笑顔で帰っていった。
初めての接客だったけれど、何だか嬉しかった。
「じゃあ、これからは奈津ちゃんと呼べばいいかな」奥さんも嬉しそうに私を見つめていた。
「はい。秋田でも奈津ちゃんって呼ばれていました」
私は元気に返事をしたけれど、これでやっと田辺豆腐店の一員になれたような気がした。
「奈津ちゃん、女の子は愛嬌も大事だからね。どんなことがあっても、笑顔を忘れたらダメだよ」
「はい。秋田にいるとき、『いつもニコニコしているね』って言われていました」
「じゃあ、大丈夫ね」
奥さんと二人でいると、なんだかお母さんと話しているみたいだった。