「やはり…… 監物源清経(けんもつみなもとのきよつね)様は、わたくしどもの母、目井(めい)の恩人でございます。

母目井(めい)とわたくし乙前(おとまえ)は、青墓宿(あおはかのしゅく)の傀儡女(くぐつ)でございましたが、監物(けんもつ)様に都に連れてきていただきました。

監物(けんもつ)さまには、都の暮らしの一切をお計(はか)らいいただき、貴い方々にお引き合わせくださいました。今日(こんにち)私どもがこうして今様(いまよう)で身を立てて生きていけるのは、ひとえに監物源清経(けんもつみなもとのきよつね)様のおかげでございます。

ああ、こうしてお孫さまに御目にかかれるのは、何という幸せでございましょう。本当にありがとう存じます」

義清は、どぎまぎした。

母方の祖父が今様(いまよう)や蹴鞠(けまり)に通じ、貴族達の広田(ひろた)神社参詣(さんけい)の手配や神崎(かんざき)、江口(えぐち)の遊女達の遊興の案内役を務める粋人(いきじん)であったこと、目井(めい)という傀儡女(くぐつ)を愛人にしてどこへも連れていき、目井(めい)が醜く老いさらばえても最後まで大切に面倒を見てやったことなどを、耳にしてはいた。

しかし佐藤家は物堅(ものがた)い武家であり、当主を亡くした母は叔父達とともに佐藤家の館に住まい田仲庄(たなかのしょう)を取り仕切っていたし、義清も年少であったことから、それほど深くは聞いていなかった。

時折佐藤家の母を訪ねてきた時の祖父源清経(みなもとのきよつね)は折り目正しく優しい老人で、義清をかわいがってくれた、という思い出しかない。

初めて待賢門院(たいけんもんいん)へ使者として訪れて、いきなり傀儡女(くぐつ)にひざまずかれても、年若い義清にはどういう態度を取ったら良いかまるでわからなかった。

真っ赤に頬(ほお)を火照(ほて)らせて身動きもできずにいた義清を救ってくれたのは、御簾(みす)から響(ひび)く朗(ほが)らかな笑い声だった。

「まあ、では義清は、いつも乙前(おとまえ)が監物(けんもつ)様、監物(けんもつ)様、と話していた恩人で、乙前(おとまえ)に今様(いまよう)を教えてくれたお師匠さんの、孫なのですね。なんということでしょう」

 

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