第1章 夫婦の問題
(6)世界一家事・育児、そして介護を分担しない夫
▼妻の自宅介護を決意した夫
熟年夫婦の男性が妻の介護を決意したケースがあります。洋一さん(仮名、現在79歳)は、元銀行マン。60代で銀行を退職して、関連会社に再就職したころから、3歳年下の妻の恵子さん(仮名)が大変涙もろくなっていることに気付き始めます。出勤するときなど、「独りでいると悲しい」とふともらすことがあり、帰宅すると表情がパッと明るくなっていたりしました。
「銀行マン時代は夫婦の会話がなかった」と振り返り、洋一さんは、毎日の散歩に加えて、週末には二人で映画やその他の様々なイベント・アトラクションを見に行くようになりました。そしてその日の話題を積極的に話すようになるのです。
ところが、洋一さんが75歳のとき、自転車で転倒して足首を強く打ちつけたのです。診断の結果、右足関節の骨折とわかり入院治療することになり、さらに入院中に頻尿を訴えたことで調べてみると、ナント早期の前立腺がんが発見されたのです。このための薬物治療も行われて、結局、入院が2カ月近くになってしまいました。退院後も歩行時の不安定さと痛みのために以前のように外出できなくなったのです。
そして、このことがまるで契機となったように、恵子さんの認知機能が次第に低下していきました。