その頃、カズくんは高校三年生で、夕方になるといつもみかどに立ち寄っていたのです。都心の高校に通っていたカズくんは、色白で背も高く、人気ドラマに出演していた俳優みたいにハンサムな風貌でした。

話も面白く、私の大好きなお兄ちゃんの一人でした。でも――カズくんはいつも睡眠薬を飲んでいるせいで、ろれつが回らずフラフラしていることが多く、「ラリってる」状態でした。

そんなカズくんを、ありのまま受け入れている両親でした。カズくんは学校帰りに、他校の生徒とよくケンカもしていました。

「他校の生徒に絡まれた」とみかどに現れたカズくんは、おでこが赤く腫れていたり、口の端や手の甲に血がついていたりしていました。

それでも母は説教もせずにいつも笑顔で接し、何も聞かずに傷の手当てをしたり、ズボンが破れてかぎ裂きになれば、カズくんを黙って家の中に入れてズボンを脱がして繕ってあげていました。

そして、穏やかに言うのです。

「カズくん、おばさんはズボンを縫ったり、ケガの手当てをしたりするのは全然構わないのよ。でも、ケンカは痛いし、つまらないからやめときなさいよ。逃げるが勝ちって言葉もあるんだよ……」

カズくんは「おばさんの言う通りだよ。ケンカは痛いから、俺もイヤなんだよなぁ」と呟き、傍にいた看板娘の私の頭を撫でながら、「ヨーコ、おまえはケンカしたらダメだぞ」と偉そうに言うのです。

カズくんは調子がいいな~と子どもながらに思っていましたが、そう言いながらもまた、ケンカをしてくるのです。

それでも両親は、どんなに忙しいときでも、カズくんを笑顔で迎え入れていました。

本連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。

 

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