十四 カズくんのこと

母の楽しみの一つは、お店が終わったあと、のんびりテレビを観ることでした。

みかどを間もなく閉める、というその夜のことです。どこの局も面白い番組をやっていないのか、しばらくチャンネルを回した母は、スイッチを消してしまいました。

私は「お母さん、お茶でもいれようか?」と立ち上がりました。

「そうだね……そうしてもらおうか」と母が言うと、うたた寝をしていた父もむくっと起き上がり、「俺にもお茶くれ」と言いました。テレビを消して静かな空間の中、親子三人のお茶タイムとなりました。

「我妻さんのお茶は相変わらず美味しいねぇ。やっぱり努力している店は味が違うよね」と言った母に「お母さん、みかどをやめるのって、寂しくないの?」と思わず聞いてしまいました。

「そりゃあ寂しいけど……身体がついていかないんだよ」

お茶の時間がちょっとしんみりしたものになりそうで、私は話題を変えました。

「お母さん、みかどのお客さんで印象に残っている人はだぁれ?」

「……誰だろうね」と母は考え込みました。たくさんの子どもたちと接してきたからすぐに答えられないのも当たり前です。

「私はね、カズくんが印象に残ってるけどね……」

「カズくんか……」と父が大きく頷きました。

「あの子は俺も忘れられないな。うちのお母さんと出会っていなかったら、少年院に送られていたかもな~」