③ 視線

社会と個体意識

ヒトは、視覚的動物である。眼は、効果器官ではない。しかし、その見る作用はある重要な役割を果たすので、ここで特に取り上げる。

他個体の心を推察し、ひいては自己意識を持つことを、心理学や脳科学では「心の理論」を持っているという。ヒトは、視覚によって、他個体の表情を特殊に認知・識別していた。視線は、ヒトの社会性の形成に重要な役割を果たしている[鮫島和行,2019]。

1. 他者認知:まず、赤ちゃんが母を認知することを始まりとして、個体同士は互いに相手を認める。それは、他個体が何を見ているかを認知することにつながる。他個体が何に注目しているかを認知することは、他個体が何か心のような主体性を持っていることを想像していることである。

2. 共同認知:そして、あることに一緒に注目をすることを認知する。これが、個体間のつながり、社会の始まりである。

3. 自己認知:社会が認識され、他個体が認知されたら、その中にいる存在も想像できる。これが自己意識である。自我というのは、他者から見られた存在である。他者、社会、自己の認知があって、個体間の会話が生まれる。こうして、自他の関係の中で、言語が生まれる。

図:視線、社会、自己[鮫島和行,2019]

このように、視線はヒトの社会性と自己意識の基礎となった。しかし、ヒトと環境をつなぐ道具は、実質、これまで視線を利用することはできなかった。

5 脳・神経系

脳・神経系

脳・神経系は複雑で未知のことが多い。しかし、解剖学・病理学、認知心理学などから、間接的な知見がいろいろ得られている。中には、ヒトと道具の関係に示唆を与える知見もある。

脳の構成要素

脳は、大脳、小脳、脳幹からなる。

写真を拡大 図:脳の構成要素[https://atamanavi.jp/169/より作成]