【前回の記事を読む】コンピュータを操作するのは「手」。だけど、ヒトと道具の間の存在として、「手」よりももっとふさわしいのは「声」!?

第1章 ヒト生体の情報処理

4 効果器官

② 発声

ヒトの条件

後で示すように、発声器官や言語に対応する脳部位は大きな部分を占めている。

また、ヒトの脳は後天的に形成される部分が大きい。ヒトは成長に伴って、言語を習得し多様な音声生産ができるようになる。この音声生産の可塑性ないし学習という点も、ヒトの特徴である[香田啓貴,2015]。

言語は単一ではなく、コミュニティごとに多数ある。言語は、特定の社会の中でコミュニケーションするために生まれた。脳・神経系に言語を操る基礎が遺伝的に備わっていたとしても、後天的に獲得された言語が、翻訳などで互いに通じ合うこと自体、不思議である。

機械が言語を操るとしたら、ヒトと機械はこれまでと異なる関係を結びうる。

発声のテキスト生産速度は指の5倍

ヒトの言語表現のスピードは、おおよそ、しゃべりなら約 150語/分、手書きは約10語/分、タイプなら約30語/分である。しゃべりは、社会的な環境で育った健常者ならば誰でもできる。一方、手書きは教育が必要であり、キータイプなら機器操作に慣れが必要である。音声での言語表現は、習熟の必要がないばかりか、指よりも5倍速い。

図:テキスト生産速度

コンピュータ・インターフェイスに、これを利用しないという手はないだろう。

声には表情がある

声は感情を表す。犬や馬でも、ヒトの声の表情を読むという[鮫島和行,2019]。意図や情緒を伝える声音(こわね)が、表現の一部を担う。将来、ヒトと環境を仲介する機械道具も、ヒトの感情を理解してほしい。