そして「けんかは強いか」「全然ダメ」「そっかー。じゃあ強くしてやるぞ」と、おまじないを掛けるようにゆったり語りかけ、頭を撫でた。圏央道を相模原愛川ICで降り、カーブの多い旧道を十五分ほど走ると、K大病院に着いた。
十三時半と、混雑のピークは過ぎているのではと予想していたが、第一駐車場の空きは屋上階に数台分を残すのみとなっていた。
廉は大きく伸びをして胸いっぱい空気を吸い込み、空が広いと思った。
希望していた無料ベッドは空き待ちの状態で、和枝は差額五四〇〇円の有料床四人部屋に入った。一号館五階南棟というところで、窓際の和枝のベッドからは小田急線・相模大野駅方面がすっきりと見渡せた。
病棟付きの若い研修医が現れ、治療開始の挨拶があり、早速、静脈、動脈双方からの血液検査、心電図検査と続いた。主治医の高井潔先生はまだ姿が見えなかった。
検査の合い間に和枝は、二十四時間分の尿を貯めて腎臓の機能を調べる検査の説明を看護師から受けた。抗がん剤治療は肝臓と腎臓の対応力が重要で、今回の検査は腎臓の排毒能力を見るためのものだった。
和枝は不明な点は些細なことでもすぐに質問し、淡々と検査に応じている。廉は病院スタッフの懇切な応対と、何より和枝自身のしっかりした動きに「これは必ずうまくいく」と感じていた。
病室に戻った和枝が、朝、遥から渡された紙袋をベッドの上で開けた。尻尾に「K」のイニシャルが付いた折り鶴、布や毛糸で手作りしたお人形、遥が幼い頃から夜は肌身離さず抱いていた安眠グッズ。