記憶だけでは曖昧になるので自分のスマホでも撮影しておいてもらう。もちろん診療記録として草介も専用のカメラで撮影し、記録を残す。

出来上がったスプリントをパチンと下顎の歯列に装着し、強く咬ませ、それから微調整をする。再び立たせて、歪んだ姿勢がクセになってしまったのを解(ほぐ)すために柔軟体操をさせる。

「気分が良くなった」

体操をしながら知数が声を出す。廊下を歩かせ、階段も上下させ、それから鏡の前に立たせる。

「左にずれていたので、右で咬み締めて慣らして下さい。さあ、姿勢を見て下さい」実知が軽く手を打って笑顔を溢れさせた。

「左右の肩が水平になりましたね」

「はい、本当に平らです」と実知が答える。

「首がまっすぐになって、左右の頬のふくらみも揃いましたね」

「すごい。完璧に揃った。それに体が楽になったし、気分がいい」本人も驚いて答える。

「体が温かくなったり、目や頭がすっきりしたり、首や肩や背中が軽くなったりしませんか」

「します。目がよく見えて視界まで広がって明るくなってきた。これ本当にすごい。運動したくなった」

知数がそう答える。

実知は何度も頭を下げ、「ありがとうございます」を繰り返していた。こんなに瞬時に効果が出るとは思いもしなかったので、驚いたというのが本心だった。

それから草介が二人に注意点を説明した。

「これでスタートラインに立ったところです。これは技術的に私がしてあげられることです。しかしこれは本質ではありません。これから先は自分でする。自分でしなければならない課題になります。

本質とは、なぜこんな状態になってしまったのか、なぜこういう症状に苦しむ日本の若者が急増しているのか、その真の原因を理解する努力をすることと、もう決して元に戻らない健全な生活をしようと努力をすること、その二つです」それから草介はこれを理解することが大事だと思っているこの病気の全体像を説明した。

【前回の記事を読む】年を重ねるほどに研ぎ澄まされる本質を見抜く力。食事と姿勢を正して人生を変えた歯科医が送る、活力あふれる365日  

次回更新は2月12日(水)、21時の予定です。

 

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