「全然。上手くいきすぎるくらい」

「ならいいけど」

言いながら、愛弓がぐいとミックスジュースを飲み込む。つまらない、とでも言いたげな表情が隠しきれていない。

悔しがれ、悔しがれ。雪子は内心でほくそ笑んだ。

「そうだ、それより来月は旅行に行かない?」

「旅行?」

随分と唐突だ。ダイヤの費用のこともあるから節約したいところだが。

「だめ? たまにはぱぁっと」

「う~ん。まぁ、いいかな」

「やったぁ。どこがいい? 旅行なんていつぶりだろ」

うきうきした様子で愛弓が言う。

どうやら釣られた魚は餌を貰えていないらしい。雪子は内心、可哀想と呟いた。

しばらく行き先について愛弓とああでもない、こうでもないと意見を交わし、神奈川県に決まった。

「それでいつにする? 愛弓はパート休めるの?」

「実は来週の金曜日、旦那さんが出張でいないんだ。パートも入ってないし、その時にしようよ」

なんだそんな理由か。途端に雪子は鼻白んだ。

昔はどんな時も友達優先だった愛弓だが、就職して初めての彼氏ができてからは、すべての予定が彼氏優先だ。彼氏に誘われるかもしれないから遊べない、彼氏の予定がダメになったから遊ぼう、と悪気もなく口にする。

              

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次回更新は2月10日(月)、22時の予定です。

   

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