愛弓がたしなめるような顔をする。
「恋愛なんて興味なさそうだった雪さんが、急に結婚なんて言いだした時は私、びっくりしたんだから。あんな男前な旦那さんなら、結婚したくなっても無理ないよね」
溜息交じりに言った愛弓に「愛弓がマウントなんて取りにくるからでしょ」と内心で突っ込みながら、雪子はエメラルドグリーンのソーダにスプーンを突っ込んだ。
学生の時は男っ気なんて微塵もなかった愛弓は、就職するなり婚活と合コンに精を出し、さっさと彼氏を作ってしまった。だが、それ自体はどうでもいい。問題は「自分を愛してくれる人がいるってすてきなことだよ」だの「ゼクシィ買っちゃった」だのと、事あるごとに勝ち誇った顔で告げてきたことだった。
あの時はとにかく、愛弓より先に愛弓が羨むような夫を手に入れるべく、画策したものだ。でなければ多分、結婚なんてデメリットの多いことは一生しなかったと思う。
とはいえ、伸親との結婚は思った以上に自尊心を満たしたし、経済的にも裕福とはいえないまでも生活は楽になった。結果オーライというわけだ。
雪子はバニラアイスの最後の一口を放り込んで、スプーンを置いた。
「べつにそこまで言ってないよ。ただ気になるだけ」
「それって浮気の始まりだよ。だめだめ。旦那さんが可哀想」
「真面目だね。既婚者の三人に一人は浮気してるって統計もあるくらいなのに」
「そういうの私、信じられない」
昔から石女(いしおんな)と渾名されるくらい真面目だった愛弓が、大げさに渋い顔をする。
「やっぱりそうだよね」
浮気はさておき、優真に深入りするのは危険だ。
「分かってるんだけど、なんか気になるの」
「雪さん、もしかして、旦那さんと上手くいってないの?」
すかさず愛弓の小さな目が輝いた。人の不幸は蜜の味。こういう話題で喜ぶのは、自分の人生に不満がある証拠だ。どうやら幸せアピールをしている割に、愛弓の家庭は上手くいっていないらしい。