「あまり興奮しないで、要点だけお話し下さい。興奮すれば治るというものではありません」

「はい……」

「治療は、朝血圧が上がって起きられるようにミドドリンという昇圧剤が出されましたか」

「そうです。起床前三十分に飲む薬です」

「効果はなかったでしょう」

「はい、それで心療内科にお世話になることになりました。そこでは抗うつ剤も出されました。でも良くなる様子は全くなくて、昼間は死んだように寝ているだけになってしまいました。起こしに行くとすごい勢いで手を払われてしまいます。

支援グループの方のお世話にもなっています。根気強く家まで面会に来てくれるのですが、本人は起きてきません。本人の気持ちに無理や負担のないように、気長に話し合うのが大事だとアドバイスしてくれます。

規則正しい生活リズムを習慣づけるように指導するのだそうです。学校に行けない子供はいくらでもいるので、特別なことと考えないことが大切だ、無理のない範囲で、やる気を持たせるようにするのが大切だと………」

「それができないからお困りなのでしょう。そんなやり方こそ無理、いや非現実的だと思います」

「もうどうしたらいいかわからず、目の前が真暗なんです。私の育て方が悪いんだと責める身内もいるし、お医者様もお手上げのように見えるし……こんな不思議なことが自分に起こるなんて」

「それで、どうして私の所に来たんですか。歯科なんか不登校と関係ないと思っている人が多いはずですが。歯科に相談しようなんて考える人はいないはずです」

実知は下を向いたまま答えない。

「何かきっかけがあったのですか」

「もう、どうしようもなくて。何とかならないものかと……」

「興奮しないで下さい。心配して騒いでも病気が治ることは決してありません。冷静で合理的な手を打つ以外に有効な方法はありません」

草介は一つのことを警戒していた。巻き込まれると嫌な思いをすることがある。みつる歯科には不登校児童もそうだが、その他にもアトピーや腰痛、頭痛、稀には不妊症治療を長くしていて効果の見られない人なども相談や治療に来院する。