私が朝早く出社することで懸念があるとウェインが言ったので「なぜそれが問題なの?」とたずねた。
「みんな君が何をしてるのか分からないと言っているんだ」と彼は答えた。
「仕事してるのよ」
「君は何をしているか、社内の人に知らせないといけないんだ」とウェインは言った。
彼は少し考えこみ「ラスと定期的に会って君がチェックするっていうのはどう?」
「あのミスター人格さんに?」ラスは平凡な男で、にこりとしたり、笑うところを見せたことがない。彼は無口だった。彼は私より少し年上で、最近博士号を取得したところだった。
彼は口からあごにかけて赤い髭を生やしており、眼鏡をかけ、口はいつも堅くしまっており、こちらから話しかけても目をそむけてしまうことが度々だった。ホント彼は人付き合いのいい人だった。
私はラスのところへ行き、朝早く出社して仕事してもよいかとたずねた。彼はいいよと言った。私は週に数回ミーティングして私の仕事の状況を報告するのはどうですかとたずねた。
彼は了承したが、どうでも良さそうだった。しかし、アップジョン社で別の問題が発生し、そのためラスの元でしている仕事から外れ、結果としてウシ成長ホルモンに関する私たちの対立が遅れることになる。
* * *
臓器移植を受けた患者に投与されるATGAMという薬があり、それは人間の血液から製造される。しかしこの話は1986年のことで、エイズ感染が全盛の時期であり、何十万人のアメリカ人が毎年このウイルスに感染し、その後数十年の間アメリカではかつてないほど多くの人に緩慢な死をもたらした感染症だった。
エイズは血液を通じて伝染する病原体であり、そのウイルスは感染防止手段をとらないセックス、注射針の共用、さらには輸血により感染することが確認されていたが、人間の血液から製造される ATGAMのような薬剤の製造過程でウイルスが生きのびることは誰も知らなかった。
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