第一章 結
麻薬王リィド・ブラッドリーには永遠の愛を誓った妻がいた。
名をアンナ。
リィドに惚れ、他の全てを投げ出して連れ添う事を決めた女。そして二人の間にはルートスと言う男の子が産まれた。
三人は三人でいる時間が何より好きで、リィドも自分の仕事の事は忘れて好(よ)く出掛けた。そして愛で互いを浴(よく)した。
リィドとアンナは、ダンプカーに撥ねられた程の衝撃を以て出会った。時は九年前の事である。
当時十九歳だったリィドは、短髪が似合うクラシカルな雰囲気の青年で、ジェームズ・ディーンに似ていると近所では噂されていた。
家の近くにある公園がお気に入りで、暇を見つけると好く散歩しに出掛けた。
リィドは陽の光を全身に浴びて草むらに寝転ぶのが何よりも幸せだった。リィド青年の心は、家業であるマフィアとは相対する様に純粋で曇り知らず、正(まさ)に今青年が浴びている日光の様に暖かく光り輝くものだった。
青年は宝の地図を思い描く様に自分の人生を描いた。誰よりも綺麗で、何よりも美しい女性と素敵な日々を送りたい。
それがリィド青年の心の内に秘めた願望で、幼少期から夢見ていた。そんな思いを胸に秘めながら、そして今日も彼は公園に出ていた。
今日は良い日だった。何もかもを忘れるには、僕は、ベンチに腰掛け、タバコを一本取り出し、火を点けた。
僕は二十歳になる来年、父のマフィアを継ぐ事になっている。ボスともなれば責任は重大だ。ファミリーの生活や命を守るためには、ヤクを売り捌くだけでなく、盗みや殺しも容赦無く実行しなければならない。
しかし、本来の僕はマフィアの黒い仕事が好きではない。僕はと言えば早くに妻を貰って、最愛の子を儲け、ごく普通の夫婦生活を謳歌したい。人生は何故こんなにも、上手く歯車が嚙み合わないのか。