『レインツリーの国』 有川 浩 新潮文庫
社会への挑戦、ささやかだけど
『フェアリーゲーム』という架空の小説、その結末のあり方についてのメールのやり取りから始まる小説。いかにも現代風(でもないか?)そしてそれは書き言葉ではなく話し言葉で、さらに関西弁で書かれている。
作者の有川浩さんは関西在住、私たち関西の人間にとってはとてもよくニュアンスが伝わるのだが、関西圏以外の地域の方の感じ方はどうだろうか。
小説は全部で五章の構成であるが、各々の章のタイトルもなかなか意味深長でどんな内容なんだろうと興味を引く。
しかし、この小説の中身を紹介するのはなかなか難しい。少しでも披露すると小説の内容自体に先入観を持たれてしまうかも知れないのであまり紹介できないのだが、
ストーリーは男女の出会いである。訳あってのヒロインと主人公のぎごちないふれあいがなかなか気を揉ませる。
有川浩さんのこの小説はごく日常にある普通の世界だ。でもそのような何気ない暮らしや出来事、人々のふれあいがこんなに感動を呼ぶものかとあらためて知らされる。
彼女はなんて文章を書くのがうまいんだろう。(作家だから当然か)『阪急電車』や「自衛隊三部作」、「シアター! シリーズ」などでも同じだが、作中に出てくる多くの人物がとてもかわいらしくて魅力的なのだ。
それを思うと自分の生活はなんて味気ない世界なのだろうかと思ってしまう。しかしそれは周りに原因があるのではなく自分自身の関わり方に問題があるのだろうと納得するのである。
(要するにいろんな出来事に対して私はもっと注意深く見るべきであると自省するのである)
自分の生活はさておいて、物語の中では主人公やヒロインは自分の行動、もしくは発した一つ一つの言葉に対して、自分の中の第三者が色々と聞いてくる、「それでいいのか?」と。
そしてそれにまた自分が反論を加えている。要するに自問、逡巡する場面が非常に多い。で、その真面目な思考を丁寧に表すことにより登場人物のキャラクターが際だち、読者は登場人物が好きになってしまう。
作者に「はめられた」と思う瞬間である。
『ひとみは短くした髪をかき上げた。……それはささやかな仕草だったが、……世界に少しだけ何かを主張してやれたような気になれた。』
実はここ、一番大切な部分なのですね。思わず感涙してしまいました。
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