「ドラン、これ」リリーが見つけたのはステファニーが買ってきた木管楽器の五種類だ。ヘラとマリッサは弦楽器四種類を見つけ出していた。ドランは「すごいな。オーケストラ団体をつくれちゃうな」とリリーが持っていたフルートを預かり一発で音を出して見せた。
感心していると「こりゃースゲー」とトラヴィスは一回り大きいクラリネットを口にくわえる。俺はすぐにクラリネットごと処分する決断をした。ヘラとマリッサは弦楽器を順に弾いてみたりして音色を試していた。ドランはリリーにフルートの吹き方を伝授し、残りの三人は木琴、ピアノ、ハープでめちゃくちゃなセッションを行っていた。
ステファニーはラジカセも買っていたようだ。横に置いているカセットを見ると何時間もかけて演奏しそうなオペラばかりだった。
「これを覚えるなんて、一人で一国の軍隊を相手に勝利を収めるほど無理なことだ」そう呟くと、ドランが横から「俺も趣味を仕事にして、オーケストラをまとめる人にまで成長できたのは親のおかげなのかもしれない」と同じように呟いてきた。
ヘラはカセットをジロジロ見ていた。めちゃくちゃなセッションを行っているなか、ヘラはラジカセで音楽まで流すつもりなのか。
結局、ヘラはカセットを流したのでより騒がしくなった。なんだか小学校の音楽室が目にうかぶ。教師なんだからトラヴィスがこの場を静めるべきだ。
するとトラヴィスが「皆が羨ましいぜ。親の優れた部分を受け継いできているからな。俺は両親と違って教師をしている。親の血が全く流れていないみたいだ」と自虐を始めた。
「トラヴィスは家族全員で公務員じゃないか。皆の両親も選りすぐりの人ばかりだから薄れていたけど両親が政府関係者なことは普通に凄いぞ」と一応励ます。
トラヴィスはため息をついて「次の部屋はどこだ。先に降りてるぞ」と階段を下って行った。
【前回の記事を読む】世間に名が知れ渡っていない人たちこそが、国を支え、未熟な偉人を育てていく。このような人たちが真の偉人ともいえる。
【イチオシ記事】「歩けるようになるのは難しいでしょうねえ」信号無視で病院に運ばれてきた馬鹿共は、地元の底辺高校時代の同級生だった。