第一章 靴

【 一 】

「あなたは賢くて勇気のある人よ。だけど、そうでないならさらに結構。ねえ。やっぱり手紙を読んでみることにしない? ね?」

ラファは言う。私の手は自然と動き、私は妹からの封筒を開いた。

A4サイズの便せんが六枚も入っている。それらの他に一枚の写真が同封されている。

そろそろと取り出せば、そこには往時の両親と私が写っていた。

「これは……私が生まれたころの写真か?」

写真の私は五歳くらい。両脇にいる両親と同じ、真っ白な服を着ている。商店街が撮影の場所だったのだろう。たくさんの店が写り込んでいる。だが、それらの店の看板は日本語でなく、朝鮮のハングルで書かれている。

私は、この写真を見たことが一度もなかった。

手紙にこの写真を同封した妹の思いを知ろうとして、私は急いでその中身を読む。

一枚読み、二枚読み、手紙の三枚目に至って、私の手はわなわなと震えた。

「……父さんも母さんも、自分たちの過去を茜に何も話していなかったのか」

筆圧の定まらぬ書き振りで、何度も書き直した跡が残る手紙には「両親の過去について知りたい」との心情が、切々と綴られていた。

妹の茜と私とは、共に過ごした時間がひどく短い。彼女が知っていることといえば、私が一人暮らしをしていて、統合失調症の治療を受けていることぐらいだろう。両親も、私のことをこの妹にほぼ全く知らせなかったのだと思われた。

それほどまでに、私の家族は私と距離を置いていようとしたのだから。

「……茜が結婚するからって、そんな」

手紙から推察するに、結婚する直前のタイミングで、両親は唐突に、私や私の生まれたころのことを妹へ話したようである。彼女は、統合失調症を患う私のことにもまして、父と母の出会いの経緯に不安を持ったのだという。

六枚目の便せんは、書き手である妹のあふれ出す涙を受けてか、皺でくしゃくしゃになっていた。そのくだりに、同封の写真のことが記されてあった。

「写真は、お父さんとお母さんが見せてくれたアルバムに保存されていたものです。