春が来た。来月から僕は大学4年生になる。僕は金髪坊主を探して、大学の構内を歩いていた。

満里奈と別れてから一週間、僕は後悔と反省で眠れない夜を過ごしていたが、それでももう自分のやるべきことはこれしかないと吹っ切れていた。

金髪坊主に喧嘩を売る。僕に残されていたのはそれしかなかった。

ただ、もうゼミなんかでみんな忙しくなっているときだ。工学部棟の周りをうろつくが金髪坊主たちにはなかなか会えなかった。工学部棟の中に入ろうかとも思ったが、それはさすがに不審者すぎる。偶然顔を合わせて喧嘩になるのが一番いい。

自分のゼミやバイト、ボクシングの合間を縫って、工学部棟の周りをうろつくがなかなか会えない。そして会えないとなると、なぜかホッとしている自分にも腹が立った。この期に及んでまだビビッている自分もいるのだろうか。

なんにせよもうすぐ大学も春休みに入る。できることならその前に片をつけたい。

誰かに聞いて連絡先を調べるか、そんなことを考えてるときだった。

喫煙所から聞き覚えのある声が聞こえたのは。

いつも工学部のヤツらが溜まっていた学食前の喫煙所。そこにいたのだ。金髪坊主が。もう髪は黒くなっていたが、間違いなくヤツだった。

四、五人の仲間たちと喫煙所のベンチに座り、煙草を吸っている。心臓がドクンと波打つ。昔のトラウマも蘇る。一瞬、不安になっている自分にも気づく。

大丈夫、大丈夫だ。自分を鼓舞する。

そうしていると、金髪坊主の仲間のうちの一人と目があった。

髪の長いチャラチャラしたチビだ。あの喧嘩のときはいなかったが、よく金髪坊主の後ろをスネ夫のように歩いているヤツだ。こちらをヘラヘラして見ている。

「うわ、あいつだよ。昔お前にボコされたヤツ」

そんなことを言ってるのだろうか。金髪坊主に何か言って、笑っている。

ありがとう、決意が固まった。ぶっ殺す。

僕は深呼吸をすると、そいつらから目を背けず、ゆっくりと近づいた。

心臓が高なる。歩みを進める足が震える。

認めるよ、さっきからまた負けたらどうしようと考えてる自分がいることも。

でも大丈夫だという自分がそれを打ち消す。二年間文字通り血が滲んだ練習をしてきたあの日々が、大丈夫だという自分を支える。お前はこの二年間必死に鍛えて身も心も強くなった、と。

【前回の記事を読む】彼女に言われて初めて気が付く、自分がとらわれていたものの正体。器が小さく大人になり切れない、それが僕なんだ―

次回更新は1月13日(月)、18時の予定です。

 

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