僕の大学デビュー天下取り物語
満里奈は最初、電話したと言ったときは驚く顔をしていたがそこからはただ黙って聞いていた。
「ごめんね、私が変な話をしたばっかりにこんな気持ちにさせちゃって」
僕の話を聞き終えた満里奈は僕を責めるわけでもなく、謝ってきた。
「しゅんがそうしたいなら、そうしていいよ。その人に電話したいならしなよ。私も昔のスクールの人とかにそのことが知られるのは嫌だけど、しゅんの気が晴れるなら好きにしていいよ」
「怒らないの? 勝手にそんなことしたこと」
「嫌だけど、しょうがないよ。しゅんが変なところがあるの分かってたし。ボコボコにされたからって大学四年生にもなるのに仕返しするためにボクシングしてるところとか、私の過去の話に怒ってその人に電話するところとか。でもそんな変なところ含めて、私が好きになったしゅんだからさ」
満里奈はそう言って、クスっと笑った。
改めて最高の女だと思った。僕のこんな変なところを笑って受け入れてくれる子なんてこの先、二度と現れないとも思う。しかも自分のことはいいから好きにしなよなんて言ってくれるなんて、僕なんかには勿体ない最高の女だ。
「しゅんはさ、許せないんだよね。他の人が多分色々と諦めたり、大人になって折り合いをつけていくことも、きっと他の人より許せない人なんだよ」
満里奈にそう言われて改めて気づいた。
そうだ、僕は許せないんだ。
満里奈をもてあそんだキツネ目オヤジも、僕をボコボコにした金髪坊主も、ダサいと言ってきた隆志も許せないんだ。
それだけじゃない、僕の童貞を奪ってすぐに他の男と付き合った亜里沙も、思いをこめたアリエルのボールペンをヤンキーにあげた美穂ちゃんも許せない。
そうだ、僕は全部許せないんだ。ただただ、許せないんだ。そのときの怒りや悔しさが冷凍保存されて、どれだけ時間が経とうとそれが解凍されると保存された当時の怒りや悲しみが鮮明に蘇る。
そういう人間なんだ。器が小さく大人になり切れない、それが僕なんだ。
そして気づいた。この許せないという気持ちは決して誰かの為に許せないとかじゃない、全部自分の為だ。
勿論大切な満里奈が傷つけられたから許せないという気持ちもある。でも結局一番許せないのは、僕がそんなに大切に扱っていた満里奈を雑にもて遊んでたキツネ目オヤジに自分が負けてる気がすることだ。
それは満里奈のためでも何でもない、自分勝手なエゴだ。僕が一番許せないのは、単純に自分自身なんだ。