金髪坊主の件だって、冷静に考えればクローズZEROに憧れて勝手に喧嘩を売った僕が悪い。向こうからしたらいきなり大した理由もなく喧嘩を売られたから返り討ちにしただけだ。

ただ僕はそんなにイキってボコボコにされた自分が許せなくて、金髪坊主にリベンジしようとしているだけだ。

隆志だって、ダサい生き方をしている僕にダサいと教えてくれただけで悪いことはしていない。本物になった僕を見せたいとかそれとなく言っていたが、結局はそんな風に思われてしまった自分が許せないだけ。

そう考えると金髪坊主も隆志も、僕のこの勝手な自分へのリベンジに巻き込まれているだけだ。

キツネ目オヤジだって、勿論法律的に十七歳に手を出しているのは悪いかもしれないが、お互いに合意の上だったわけだし、不倫という選択肢を選んだのは他でもない満里奈だ。

それはもう二人の問題だし、しかも過去のことだ。やっぱり今の僕が勝手に介入していく権利なんてない。ただキツネ目オヤジに負けている気がする自分が許せないだけなんだ。

そう考えると僕がやろうとしていることはきっと意味のないことで、単純に自分自身がすっきりしたいだけの行動なんだろう。

そんな自分がすっきりしたいだけのことに、満里奈を隆志を、金髪坊主だって、キツネ目オヤジだって巻き込んでいいのだろうか。

「ごめん」

僕は謝った。心の底からその言葉が漏れた。本心だった。

「満里奈の言う通りだよ、俺単純に許せなくて。満里奈のためとかじゃなくて、俺が単純に……でもその気持ちに満里奈を巻き込むようなことはしたくない。

不倫のこともダンススクールの人にも知られたくないだろうし、そもそも今更そんな過去のこと追及してもその先生がどうこうなるとも思えないし、満里奈が知られたくないこと周りに知られて傷つくだけの可能性もあるし。

満里奈だって忘れたい過去のことなんかこれ以上掘り起こされたくないだろうし……。もう忘れるよ、そのダンスの先生のことは。何も聞かなかったことにして、そいつのことはもう考えない。うん……」

そうだ、それでいい。自分に言い聞かす。

許せばいいだけだ、それが幸せになる一番の方法だ。誰でもわかる。

時間が経てば、自分がそのキツネ目オヤジと同じくらいの年齢になれば、そんな気持ち薄れていくだろうし、そんなことを考える隙間がないほど、これから満里奈との楽しい思い出で埋めていけばいい。

【前回の記事を読む】僕はおかしくなっていた。僕は家を出る彼女の背中に「ごめん……」と小さく呟いたが、その声は多分届いていなかった。

次回更新は1月12日(日)、18時の予定です。

 

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