僕の大学デビュー天下取り物語
金髪坊主のことだって、きっと時間が経てば薄れていく。わざわざまた喧嘩を売って、問題になって大学を退学とかになったらどうする。もう大学四年生だ。ここまで大学に通わせてくれた親への感謝だってあるんだ。
全部許せばいいだけなんだ。全ては自分勝手な許せないというエゴなんだ。だから……
「あっ、ダメだ。無理だ」
そこまで考えて急にその言葉が漏れた。本心だった。
「ごめん、俺多分無理だ。考えちゃう、忘れられない。これから満里奈と一緒にいても俺絶対心のどっかでそいつのこと気にしちゃう」
はじめ満里奈は急に意見を変えた僕にきょとんとしてたが、クスッと笑った。
「だよね。私も無理だと思う。それがしゅんだもん」
「気にしちゃうよ、俺。器小さいもん。俺そいつの写真とかも見ちゃったからさ、頭にちらつくんだよ、こんな……ウィッシュみたいなポーズしているあいつが」
「写真まで見たんだ」
「なんかホームページ載ってたからさ。顔写真。思った感じのヤツじゃなくてちょっと面くらっちゃったけど」
「そっか」
「あ、でも満里奈にもう迷惑がかかりそうなことしないって言うのは本当だよ。ダンススクールに電話かけたりはもう絶対にしないし。だから満里奈はもうそいつのことは忘れて。でも俺は忘れられないし、許せない。だからこんな気持ちでこれ以上満里奈と一緒にいてもよくないと思う……」
満里奈の目から涙が零れていることに気が付いた。僕の目からも身勝手にも涙が零れる。
「別れようか。私も過去のことでこれ以上しゅんを苦しめたくない」
このセリフを満里奈から言わせたことも情けないと思った。
「うん……ごめん」
自分の器の小ささを呪った。心底ださい男だと思った。そんなことくらい許せばいいのに、幸せになれるのに、それすらできないダメな男。彼女の過去に囚われる惨めな男だ。
でもその反面、開き直りの境地ともいうのか、少し清々しい思いもしていた。
これが俺なんだ。もうこれが俺なんだからどうしようもない。器が小さかろうが、ダサかろうがもうどうしようもない。
俺はやっぱり許せないんだ。
北九州でヤンキーに絡まれないように目を逸らしながら生きてきた。そのときから心の中でずっと思ってた。なんで僕が目を伏せて歩かなきゃいけない。なんでシンナーを買わなかったからって理不尽に殴られなきゃいけない。許せない。
でもこれ以上の被害を受けないために、必死にその気持ちに蓋をしてきた。それが嫌でそんな自分をずっと変えたかった。だから地元を離れて大学デビューを決意した。
僕にとっての真の大学デビューは、もう許せないことを我慢しないことなんだ。満里奈はそんな僕の気持ちを分かって受け入れてくれた最高の女性だった。