ただ責めてどうする? その先は? 満里奈に対して謝罪を求めるのか、それとも東京まで行って一発ぶん殴るのか、何も考えてなかった。

そもそも五年前の満里奈が十七歳の頃の話だ、他にも女がいたようだし、もうそのオヤジも忘れているかもしれない。

その前に自分にそのオヤジを責める権利はあるのだろうか? 満里奈との不倫は俺と付き合う前の話だし、今の俺には関係がないことだ。

満里奈だって今更、こんなことが公になることは望んでない。東京でも誰にも言ってこなかったことだ。それを俺が勝手に蒸し返すなんて馬鹿げた話だし、満里奈自身が謝罪してほしいなんかも一言も言っていない。

どうしよう、何を言おうかと。頭の中がぐるぐるしていると、電話口から怪訝そうに「もしもし?」という声が聞こえた。

僕は一言……

「淫行野郎」

とだけ言うと、電話を切った。

そこからはもう本当に自己嫌悪だった。俺は一体何をしているんだと、頭を抱えた。

世の中のいたずら電話とかをしているヤツとかは、こんな気持ちなのかなーとぼんやり思うと、情けなさ過ぎてて少し笑えた。

結局僕が勝手にパンクして起こした行動は、少し声を変えて「淫行野郎」と一方的に言って電話を切ることだけだった。

満里奈の家に向かおうと思ったが、力が入らずに立てなかった。とにかく惨めで、暗闇にいる芋虫になった気分だった。

「とんでもないことしてしまった」

満里奈にきちんと謝れたのは次の日の夜だった。一通り落ち込んだ後に満里奈に黙ってキツネ目オヤジに接触しようとしたことが申し訳なくなり、僕は満里奈に連絡して会いに行った。

僕はキツネ目オヤジに電話してしまったこと、でも満里奈のことは何も言えずただのイタズラ電話で終わったこと、そして自分がそんなことをするまでに至った自分の気持ちの経緯を全部伝えた。

自分が今どうしようもなく辛くて、おかしくなってることも。

【前回の記事を読む】幾度となく彼女の不倫を突き詰めるように疑問をぶつける。彼女のあやふやな返答は妄想を加速させ、ついに口に出してしまった。

次回更新は1月11日(土)、18時の予定です。

 

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