僕の大学デビュー天下取り物語

そして堰を切った僕はもう止まらない。

「あとさ、俺を傷つけないようにって思ってるのかもしれないけど、たまに嘘ついて答えてるときあるでしょ? なんとなく分かるよ。もう今更嘘つくのやめてよ、真実だけ教えてよ。

小さい嘘でもさ、一個そこ疑っちゃうと、もっと大きい部分も嘘じゃないかって疑っちゃうから。

もっと長い期間不倫してたんじゃないかとか、他の生徒に手出してるって分かった後も関係続いたんじゃないかとか、未だに実はまだその先生に未練あるんじゃないかとか……」

そこまで言って、自分はなんでこんなこと言ってるのだろうと思った。こんなはずじゃない、こんなことを言いたかったんじゃない。

僕はただこの絶望的な妄想を少しでも否定してほしかっただけで、なんなら「今までの話、実は全部嘘でしたー」って言ってほしかっただけというか……いや、そんなこと言われたところで今更「えー、騙されたー」って信じるわけないか。

じゃあ一体なにがしたいんだ。少しでもダメージを減らしたいのか、でも少しダメージが減ったところで何にもならない。

そうだ、答えは勿論分かってる。僕が過去を気にしないことが一番だ。過去は変えられないけど、未来は変えられる。誰かが言ってただろ。もう全部忘れて何事もなかったかのように振舞う。

満里奈がそんな気持ちの悪いオヤジにもて遊ばれていても、その分僕が満里奈を大切にして幸せにしてあげたらいいじゃないか。分かってる。絶対そうだ。

でも僕は、そんなことができないほどの器の小さな人間だったんだ。

「てかよく不倫できたな。あんな気持ちの悪いオヤジと」

自分でもなぜか冷静にその言葉を吐いた。自分がああ、言ってしまったと気が付く頃には満里奈はもう僕の家を飛び出していた。

あんなに強いと思ってた満里奈の目からは大粒の涙が零れていて、僕は家を出る満里奈の背中に「ごめん……」と小さく呟いたが、その声は多分届いていなかった。

家で一人になると僕はスマホを手に取り、満里奈が前にいた事務所のサイトを見た。

キツネ目オヤジは自分でもダンススクールをやっている。経歴の欄にそのスクールの代表として電話番号を載せていたことは、前から確認していた。

分かってるよ、僕はおかしくなっている。

そのまま、その電話番号に電話をかけた。

「はい、○○です」

キツネ目オヤジはすぐに電話に出た。ローマ字表記されたあの横文字の名前をしっかりと名乗っていた。声はおじさん相応の野太さだった。

その声を聴いた瞬間、僕の頭は真っ白になった。

あれ、なんて言おう?

心の準備も何もないまま、勢いでかけた電話だ。何の計画もなかった。ただ電話をかけた理由は分かっている。自分の中でいてもたってもいられない気持ちを全部ぶつけて、大事な満里奈をもて遊んだことを責めようと思ったからだ。