色々な質問責めや辛い経験を思い出して疲れたのか、満里奈はもう眠っていた。

僕はベランダで辞めたはずの煙草を吸いながら、考えていた。

今僕はこんなに苦しい。でもその答えはわかっていた。おそらく僕にとって一番重いのは、不倫が倫理的にダメだとかそういうことではない。そして申し訳ないが傷つけられた満里奈を想ってとかでもない。

僕を苦しめているのは自分の大事な満里奈が、あんなオヤジにもて遊ばれてたという過去だった。

家庭がある向こうからしたら、満里奈は「遊び」だ。全てを捨てて、満里奈と一緒になるつもりなんて毛頭なかっただろう。奥さんや子供がいただけではなく、他の生徒にも手を出していたほどのヤツだ。それは満里奈だけではなく、話を聞いた僕でもそう感じた。

二十一歳の僕からしたら、十七歳年上のおじさんと本気で付き合ってたとしても、ちょっときついかもしれないのに、しかもそれが遊ばれていたとなったらなおさらだった。

自分の大事に、大事にしてきた宝物が変なヤツに汚されていた、まさにそんな感覚だった。あんな綺麗で性格もいい満里奈がなんで? なんであんな汚いオヤジに遊ばれてたんだ?

満里奈の当時の心情やいきさつを丁寧に聞いたところで、結局頭の中がそれ一色で埋め尽くされる。十七歳から十九歳という輝かしい青春の2年間を、そんなオヤジに捧げてた満里奈がやっぱり理解できなかった。

僕は身震いした。これから満里奈と付き合っていくなら、ずっとその過去という、巨大でぐちゃぐちゃした敵と向き合い続けなきゃいけないのだろうかと。

いつか、ふとした瞬間にそんな過去なんてどうでもいいと気になる瞬間がくるのだろうか? それはいつ? いつくるのだ? さすがにおじいさん、おばあさんになったら、そんなことどうでもよくなるとは思うが、それまでは苦しみ続けるのだろうか?

今自分も、当時の僕から見たらおじさんと言われる年齢になってくると、あまり彼女の過去なんて気にならなくなってきたし、なんであのときはあんなに苦しんだのか不思議に思えてくるのだが、当時の僕からしたらそれは大問題でそれほど僕の器は小さく、脆かった。

【前回の記事を読む】彼女の過去を理解して先へ進みたい。そう思って不倫の顛末をたまらず聞いてしまった。「中学を卒業してスカウトされた東京の事務所に...」

次回更新は1月8日(水)、18時の予定です。

 

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