僕の大学デビュー天下取り物語

そこから二年ほど満里奈は誰にも相談せずに苦しい関係を続けた。キツネ目オヤジが家族で仲良く歩いているところも目撃したし、本当は離婚する気がないこともうすうす気がついたが、もう後には引けずにそいつのことを信じるしかなかった。

しかしまたある日、満里奈と一緒にそいつのレッスンを受けていた事務所の先輩(全然真面目にレッスンも来てなくて男遊びの激しい人だったらしい)と飲みに行ったときに、その先輩がキツネ目オヤジとセフレだということをポロッと言い、満里奈はそいつが他の生徒にも手を出していることを知った。

その先輩の話では後二人、キツネ目オヤジにはセフレがいたようだ。

満里奈はそこでやっともう無理だと目が覚めて、キツネ目オヤジに別れを告げた。キツネ目オヤジは別れることにごねたらしいが、満里奈がその先輩の名を出すと「ごめんな」と観念して、別れに応じた。

こうして満里奈の十七歳の頃から2年間続いた不倫関係は終わったのだ。

そこからそのキツネ目オヤジに会うのが気まずくなり、満里奈はレッスンにもあまり行けなくなった。キツネ目オヤジも負い目があったのか、色々と暴露されるのを恐れたのか満里奈によそよそしく気を使うようになった。

ダンスも伸び悩んでいたしもう宮崎に帰ろうと思っていたが、そんなときにCMが決まり、満里奈は事務所を辞めるわけにも行かずにずるずると東京で過ごした。

二十歳の誕生日の夜、満里奈は一人で家で過ごしているときにふと限界が来た。テレビでは満里奈のCMがちょうど流れていたが、それは自分の実力で獲ったものではないとも思っていた。

そのキツネ目オヤジが、知り合いの広告代理店の人にダンサーを探していると言われて、満里奈のユニットを推薦して得た仕事だというのも、あとから聞いていたのだ。

それが満里奈への贖罪のつもりなのか、純粋に仕事として満里奈たちを推薦したのかは分からないが、そのキツネ目オヤジのおかげで仕事を得たという状況も嫌だった。

満里奈はその日のうちに事務所へ辞めると連絡した。その後、一度キツネ目オヤジからLINEが届いていたが、それは見ずに消去して宮崎に帰ってきた。

被害者。まあ、なんにせよ満里奈は被害者だ。

最初は騙されていたわけだし、向こうに家庭があると分かった後も不倫関係を続けたのは悪いが、それももう好きになっていたというなら感情的にはそんなに責められることはないのかもしれない。

満里奈もおそらくたくさん苦しい思いをしてきたはずだ。一人で過ごしてる夜は何度も泣いて、向こうの奥さんに嫉妬もしたことだろう。

キツネ目オヤジが奥さんや子供と一緒に歩いてるのを見たとき、他の生徒にも手を出していると知ったとき、絶望に包まれただろう。それをまだ責めることなんてどうしてできようか。