僕の大学デビュー天下取り物語
そこから旅行は二日間ある。二日目は霧島の神社や公園に行き、夜はまた露天風呂でお酒を飲む。三日目は鹿児島を観光。船で桜島に渡りカヤックをしたり火山の周りをサイクリングしたり。美味しいものをいっぱい食べて、綺麗なものをいっぱい見て、写真もいっぱい撮った。
でも僕の胸の中には、噛んでも噛んでも咀嚼できない、なにか固いしこりのようなものがずっとあった。そのおかげでどれだけ楽しくても完全に楽しめない気がするのだ。
しかもそれは、忘れよう、忘れようとするたびにどんどんと大きくなっていく気がする。
満里奈はあの話は元々してなかったかのように楽しそうに笑っていた。僕もこの楽しい旅行の雰囲気は壊さないようにと笑顔を作る。
帰りの車内は何を話しただろうか。多分僕はどこか上の空で、でもそれを悟られないように必死に言葉を紡いでいたとは思う。しりとりもまたしたはずだが、行きの車内のようなキレはなかったはずだ。
満里奈のことはもうどうしようもない過去の話で、そんなことを気にするのは馬鹿らしいはずなのに、一体なんでそんなに気にするのか自分でもよくわからなかった。
満里奈を家まで送り届けて、自分の家に帰る。家で一人になった瞬間、そのしこりはよりずっしりと存在感を放ってきた。
「不倫か……」
僕はスマホを手に取ると、満里奈がいた事務所を調べてしまった。満里奈がいた事務所の名前は前に聞いたことがあったし、珍しい名前だったので憶えていた。「東京 その事務所の名前」で調べると、すぐにホームページで出てきたのでクリックする。
なんでこんなことを調べてしまっているのかはよく分からなかった。ただ、脳がやめろとか命令を出す前に手が勝手に動いた感じだ。
ホームページを見ていくと、でかでかと男の写真が出てきた。写真の下には「ダンス講師」と書いてある。そしてローマ字で書かれたその男の名前と年齢、三十九歳。今、二十二歳の満里奈の十七歳歳上という話だったので年齢もぴったりだ。
こいつだ、こいつが満里奈の不倫相手だ!その男は、おじさんだった。無精髭で肌は汚く、ダンサーとは思えないビールっ腹で、目がキツネのように細かった。
でも服装だけはなんか若い人が着るようなストリート系で、金の大きなネックレスをして腕を体の前でクロスさせて、中指と薬指を折りたたみ……ウィッシュ。DAIGOのウィッシュのポーズを決め顔でしていた。