僕の大学デビュー天下取り物語
静寂の中に浮かぶ蒼い月明かりの下、湯気が立ち上がる。その湯気の中からやわらかく浮かび上がる満里奈の白い肌はとても綺麗で幻想的だった。
貸し切り露天風呂で、湯船に熱燗を乗せたお盆を浮かべて、僕は満里奈とゆったりとして時間を過ごしていた。
心地いい虫の鳴き声も聞きながら、雄大な山々や輝く星たちを眺めるとここが天国のように思える。お酒によるものかこの状況によるものなのか、僕たちは気持ちよく酔っぱらい多幸感に包まれていた。
僕と満里奈はお互いの昔の話をしていた。お互いの嬉しかったこと、悲しかったこと、悔しかったこと、今までの人生を振り返って話していた。
きっと僕も満里奈も、お互いが別々に過ごしていた今までの時間すらも共有したくなっていた。なんでも話せる気がしていたし、なんでも聞ける気がしていた。それほど全てをさらけ出してもいいと思える解放感が漂っていた。
でも、今にして思えばそれが間違いだったのだろう。結局はお互いに別の人間。一生誰にも話さなくていいこともあるし、聞かなくていいこともある。話がだいぶ深く、深くなっていった頃、満里奈がぽつりと言った。
「私、実は昔不倫していたんだよね」
ゆったりと流れていた時間が一瞬、確かにぴたりと止まった気がした。
「…不倫?」
「そう、五年前。十七歳の時なんだけどね」
もちろん初耳だった。お互いに昔の彼女、彼氏の話はなんとなくしてこなかったし、おそらくこんな状況じゃなければ満里奈もこんな話はしてこなかっただろう。
満里奈もきっとなんでも話せるし、聞ける気分になっていたのか、僕にはすべてを曝け出しておきたくなっていたのか。とにかく満里奈はその話を僕にしてしまったのだ。
「へーそうなんだ」
僕は「人間生きてたら、そういう経験もあるよなー」くらいのテンションでそう言うと、そんなこと全然気にしませんよという顔をした。
でも体の内では心臓がドクドクとペースを上げて拍動しだしているのも感じた。
「相手は東京で事務所にいたときのダンスの先生でさ。十七歳くらい年上だったかな。最初、私はその人が結婚していることも、子供がいたことも知らなかったの。その人も周りの人にも誰にも言ってなかったし。
でも付き合って一か月くらいして、向こうに家庭があることを知ったの。すぐに別れようと思ったけど、もう好きになってたから、別れられなかった」
僕は純粋にこれ以上聞きたくないと思った。ただそう思いながらも、もうここまで聞いてしまったのだから最後まで全部知りたいという気持ちも抑えきれなかった。