「どれくらい付き合ってたの?」

動揺していることを悟られないように、僕は冷静を装って聞く。

「……二年くらいかな。あまり覚えてないけど。その人に奥さんと子供がいることがわかって問い詰めたら、向こうはもう離婚するつもりで、だから周りにも結婚していることを隠してるって言ったの。

でも結局、その人は離婚なんてするつもりなんてなかったんだろうね、一回その人が奥さんと子供と仲良さそうに新宿を歩いてる姿も見ちゃったし。別れた決め手はその人が私以外にも、他の生徒にも手を出してたことを知ったからかな。

ブチ切れて、喧嘩別れした。で別れてからはダンスのレッスンでその人と顔合わせるのも嫌になって、なんか色々疲れちゃって事務所も辞めた。もともとダンサーとしてやってくのも限界感じてたしね。ラッキーでCMとかは出れてたけど。それで宮崎に戻ってきたの」

満里奈はそこまで話すと、熱燗をぐいっと飲み佇む山々に視線をやった。辛いことを思い出したからか、その目は少し涙ぐんでるように見えた。

初めて満里奈にあったときに感じた影のようなものは、こういう辛い経験をしてきたからかなーとぼんやり思う。

「ごめんね、こんな話。引いたよね」

何も言葉が出ない僕を見て、満里奈は我に返ったのか心配そうに僕を見る。

引いた……とかよりも、とにかく僕はショックだった。でも、こんなつらい経験を正直に打ち明けてくれた満里奈を不安にさせてはいけないと、僕は無理矢理に笑顔を作った。

「大丈夫だよ。辛かったね」

僕がそう言うと、満里奈の目からぽろっと涙が零れた。満里奈の中でなにかが解放されたのだろうか。

「でもそんな辛い経験があってこその今の満里奈だからさ。そんな経験がなかったらオレたち出会ってすらいなかったかもしれないし。オレはどんな満里奈も好きだよ」

どっかのネットで見たようなセリフを言うと、満里奈が泣いたので僕らは抱き合った。虫の鳴き声が聞こえる。あれ、さっきまでこんなにうるさかっけ?ぼくはそう思った。

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次回更新は1月5日(日)、18時の予定です。

 

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