「しゅん?」

振り返ると、新一郎がいた。

「えっ! 新一郎!」

新一郎とは学科こそ一緒だったが、ゼミも違うため大学ではほとんど顔を合わすことはなくなっていたので、久しぶりだった。

「え、なんでここに?」

「いや、オレ昨日から休みやったから、女と旅行に来てんねん」

新一郎が指を指した方向には派手なギャルがいた。ギャルはご当地の酒コーナーを見てて、遠くからこちらに軽く会釈だけしてきた。

「え、てかしゅんは? なんで?」

「ああ、オレ彼女と今日から旅行に来ててさ。彼女、店の外にいるんだけど」

「マジ? 彼女できたん? 相変わらず遊んでんなー」

「いや、別に遊んでるとかではないけど。新一郎も相変わらず元気そうやな」

「まあな。てか、こうやって話すの。なんか久しぶりやな」

「そうやね」

金髪坊主の件があってから、疎遠になったからな、と思った。もちろん口には出さない。僕らの中では、あの件は触れないという暗黙のルールができていたから。

「そや、今度また久しぶりにコンパでもしようや。オレ結構ノリ良くて、可愛い子知り合ってるで。あの子の友達も、結構ノリよくてエロいし」

新一郎が小声になりながら派手なギャルを指さす。ギャルはもうスマホをイジっていた。

「あの子は彼女じゃないの?」

「ちゃう、ちゃう、あれはセフレや」

新一郎は相変わらずだなと思って、少しおかしくなった。

「また昔みたいに遊ぼうや。ほら、彼女なんて何人いてもええやん」

そうだ、オレ前は新一郎みたいになりたいと思ってたな。女の子に本気になった分、亜里沙の時みたいに傷つけられるのが嫌で。それなら新一郎みたいに一人の女の子に固執せずにたくさんの女の子と遊んで。図太く強く生きた方が楽だし、楽しいだろうって。

でも今は違う。僕はやっぱり一人の女の子と深く付き合いたい。愛して愛されて、裏切られて傷つくかもしれないけど、心から信頼して支え合える相手と……いや、そんなごちゃごちゃ考える問題じゃない。

満里奈が大事だ。満里奈以外の女の子なんて今はどうでもいい。

「いや、やめとくよ。今の彼女、だいぶ好きだから」

僕は正直に言った。新一郎はびっくりした顔と残念そうな顔、そして少し失望したような顔もあったのか? それらが入り混じったような顔をした。

「そっか。なんか青春やな。まあ、じゃあ彼女さんと仲良くな」

そういうと新一郎はギャルの元へ戻り店を出て行った。

その背中を見ながら、今度こそ完全に新一郎とは友達ではなくなったんだろうなーとぼんやり思った。

【前回の記事を読む】テレビで見たあの子と付き合うことに⁉ しかし、これでいいのだろうか。しこりは残らないだろうか......

次回更新は1月4日(金)、18時の予定です。

 

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